齧歯類にとって嗅覚は生命線と言っても過言ではない大切な感覚機能であり,主嗅覚系(主に匂い分子)と鋤鼻神経系(主にフェロモンなどの天敵の存在を示す分子)という独立した2つの嗅覚システムを持っている.鼻から入った匂いを感知しているのは嗅覚受容体であり,1,000種にものぼる遺伝子群として1991年にLinda BuckとRichard Axelが発見し,後にノーベル医学・生理学賞を受賞している.アフリカゾウが齧歯類よりも多い嗅覚受容体遺伝子を持つことが近年の研究で判明し,アフリカゾウは実際にかなりのことを嗅ぎ分けることができる.ヒトにおいては,アフリカゾウの約1/5の嗅覚受容体しか持ち合わせていないが,古くより疾病に伴う体臭の変化を利用した「嗅診」が存在し,明治時代までは当たり前のように行われていたようである.さて,ヒトの嗅覚は加齢に伴い機能が低下するのは研究で証明されているが,この加齢に伴う嗅覚障害以上に,「匂い」を認識しなくなる,「匂い自体」が入力されなくなる疾患として,パーキンソン病(PD)やアルツハイマー病(AD)がある.本講演では,PDとADの嗅覚障害について概説する.