自律神経
Online ISSN : 2434-7035
Print ISSN : 0288-9250
58 巻, 4 号
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特別講演
  • 板東 武彦
    2021 年 58 巻 4 号 p. 247-259
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/27
    ジャーナル フリー

    情報通信技術や機器の進歩により高精細度の映像を広く伝播することや仮想空間で作業することが可能となり,生活の利便性が増加した.これらの技術はゲームなどエンターテインメントをはじめ産業,医療,教育等広い分野で使われ,人間の持つ可能性が増大した.一方,映像視聴に伴う「望ましくない生体影響」も出現したが,これらは自律神経機能と深い関係を持つ.映像環境を有効に活用するには生体影響について知り,これを適切に制御する必要がある.本総説では映像視聴に伴う生体影響の歴史,映像酔い/VR酔いの症状,研究の状況,メカニズム,防止のための方策等について述べる.可塑性の高い発育期にある未成年者の映像視聴に伴う健康被害に注目した.映像の生体影響分野の研究論文や総説は数多いが紙数が限られているので,一部のみを紹介する.

シンポジウム
  • 本郷 道夫
    2021 年 58 巻 4 号 p. 261-265
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/27
    ジャーナル フリー

    腸管腔からのシグナルが腸管壁を介して中枢に伝達された時,その経路のいずれかの異常によって消化管不快症状を形成する.一方,中枢における変調は視床下部―下垂体―副腎軸および自律神経系を介して腸管機能の変調を誘発する.この双方向の制御機序のいずれかの変調が消化器症状を形成する.近年の研究では,消化管内腔の腸内細菌叢の異常による上皮微細炎症が,炎症性サイトカイン,消化管ホルモン,神経伝達物質を介して中枢での消化器症状発現に関わる.心理社会ストレス,生育期の問題は,末梢に対する変調と症状知覚とに影響を与える.このような関係性は,脳-腸-腸管微生物軸として,消化器症状解明の手がかりとなっている.

  • 鈴木 秀和
    2021 年 58 巻 4 号 p. 266-272
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/27
    ジャーナル フリー

    機能性ディスペプシア(FD)は症状の原因となる器質的疾患を認めない,胃・十二指腸領域に起因する不快な慢性症状がある症候群をいう.その病態は未だ解明されていない点が多いが,消化管運動異常,内臓知覚過敏,社会心理的ストレスだけでなく,遺伝的因子,食事要因,微小炎症と粘膜透過性亢進,腸内環境や腸管感染も関連するとされる.また,これら要因が腸脳相関と深く関与し,Rome IVでは「腸脳相関の異常」という副題がついており,脳-腸-腸内細菌叢軸の重要性が提唱されている.まさに,80年前に提唱された自律神経過剰刺激症候群の病態機序の慢性版であると考えられる.Rome IVは,過去10年の病態研究の進歩に基づいて診断技術と治療学の進歩を示したが,その後も当該領域の研究の進歩は絶え間なく,それらが新たな議論の土台となり,2026年の発刊予定の改訂版のRome Vに発展することが期待されている.

  • 榊原 隆次, 土井 啓員, 澤井 摂
    2021 年 58 巻 4 号 p. 273-278
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/27
    ジャーナル フリー

    慢性便秘症の有病率は高く,国民の約4%にみられ,加齢と共に増加する.その1因として,最近,レヴィー小体病が知られるようになってきた.レヴィー小体病は,パーキンソン病(PD),レヴィー小体型認知症(DLB),自律神経variantの3型がみられ,脳神経外来での比率はそれぞれ47%,47%,6%程度と報告されている.自律神経variantには,純粋自律神経不全症,便秘/レム睡眠行動異常型がある.このうちパーキンソン病は一般人口の1,000人に1人程度とされる.一方,レヴィー小体型認知症は80歳台の15人に1人とも言われ,決して稀な疾患ではない.レヴィー小体病は,運動障害・認知症をきたすと同時に,消化管障害がしばしばみられる.症状として難治性の便秘が多く,消化器科救急として麻痺性イレウスをきたすこともある.このように,慢性便秘症の一因としてレヴィー小体病にも注意すると良いと思われる.

  • 平井 利明, 黒岩 義之
    2021 年 58 巻 4 号 p. 283-289
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/27
    ジャーナル フリー

    新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は2019年12月に中国の武漢から原因不明の肺炎として同定され,ヒト宿主細胞への侵入は重症急性呼吸器症候群(SARS-COV)と同様にアンジオテンシン変換酵素(ACE)2を介する.本稿ではCOVID-19(以下,本症)におけるウイルス浸潤のメカニズム,呼吸不全を伴う本症のGWAS解析におけるACE2の重要性,さらに近年報告された嗅覚・味覚障害の頻度,頭部MRI所見,末梢神経障害,脳症についてレビューする.また,持続する本症の症状は脳脊髄液減少症や筋痛性脳脊髄炎に類似するが,この仮説はSARS-CoV-2の感染実験により,ACE2を発現する脈絡叢上皮細胞への障害と,血液-脳脊髄液関門の破壊に伴う免疫異常という所見により支持される.

  • 成川 真隆, 三坂 巧
    2021 年 58 巻 4 号 p. 290-293
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/27
    ジャーナル フリー

    味蕾は数十個の味細胞から構成される.唾液中に拡散した味物質は味細胞によって検出される.検出された味シグナルは細胞内情報伝達を経て,味覚神経へ伝達され,中枢へ入力する.哺乳類において味は,甘味,苦味,旨味,酸味,塩味の五つの味質に分類される.味細胞はそれぞれの味質を特異的に検知するセンサーである味覚受容体を発現し,それぞれの味受容を担う.本稿では,特に味細胞における味の受容伝達機構に着目して,最近の知見を概説する.

  • 仙石 錬平
    2021 年 58 巻 4 号 p. 294-297
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/27
    ジャーナル フリー

    齧歯類にとって嗅覚は生命線と言っても過言ではない大切な感覚機能であり,主嗅覚系(主に匂い分子)と鋤鼻神経系(主にフェロモンなどの天敵の存在を示す分子)という独立した2つの嗅覚システムを持っている.鼻から入った匂いを感知しているのは嗅覚受容体であり,1,000種にものぼる遺伝子群として1991年にLinda BuckとRichard Axelが発見し,後にノーベル医学・生理学賞を受賞している.アフリカゾウが齧歯類よりも多い嗅覚受容体遺伝子を持つことが近年の研究で判明し,アフリカゾウは実際にかなりのことを嗅ぎ分けることができる.ヒトにおいては,アフリカゾウの約1/5の嗅覚受容体しか持ち合わせていないが,古くより疾病に伴う体臭の変化を利用した「嗅診」が存在し,明治時代までは当たり前のように行われていたようである.さて,ヒトの嗅覚は加齢に伴い機能が低下するのは研究で証明されているが,この加齢に伴う嗅覚障害以上に,「匂い」を認識しなくなる,「匂い自体」が入力されなくなる疾患として,パーキンソン病(PD)やアルツハイマー病(AD)がある.本講演では,PDとADの嗅覚障害について概説する.

総 説
  • 榊原 隆次, 舘野 冬樹, 相羽 陽介
    2021 年 58 巻 4 号 p. 299-304
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/27
    ジャーナル フリー

    髄膜炎-尿閉症候群(meningitis-retention syndrome,MRS,尿閉と無菌性髄膜炎の同時発症)は,原因不明の急性尿閉をみた場合,一度は考慮すると良い疾患と思われる.最近さらに,MRSで髄膜刺激症状が無く,髄液異常のみを呈する不全型も知られるようになってきた.尿閉の病態機序として,脊髄内の排尿下行路の比較的選択的障害が推定されている.多発性硬化症,急性散在性脳脊髄炎,脊髄炎等はいずれも副腎皮質ステロイド剤などの免疫治療を要する一方,MRSは自然軽快することが多い.ステロイドパルス療法がMRSの経過を短縮するか否かについては,今後の検討が必要と思われる.MRSでは,急性期の尿閉を適切に対処し,膀胱過伸展を防ぐことが重要と思われる.

ミニレヴュー
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