2023 年 60 巻 4 号 p. 144-150
意思決定とは価値に基づく行動の選択であり,脳の線条体,眼窩前頭皮質,前部帯上皮質などがその機能を担っていると考えられている.一方,自律神経の活動は意思決定において重要な役割を果たす.選択肢と結果の随伴確率により自律神経活動が修飾されること,アドレナリン分泌に反映される身体の覚醒状態が島皮質の活動を媒介として探索的な意思決定を促進すること,などが示されている.近年,認知神経科学において優勢となっている予測的処理の理論は,こうした意思決定を支える脳と自律神経の機能を統一的に説明する可能性を持っている.本稿では,この問題に関連する研究知見と,そこでの脳と身体の機能を表現する計算論モデルを紹介する.