1962 年 15 巻 3 号 p. 106-110
観血手術においては, 常に厳重な無菌的操作をおこなうにもかかわらず, 稀には手術創の感染をみる。とくに整形三外科では, 術後の感染は後療法の時期を遅らせ, あるいは過剰の瘢痕形成によつて, 機能に悪影響を及ぼすことが多い。感染の原因としては, 手術時に創内に落下する空中菌の問題のほかに, 手術部位・手術侵襲の大小, 手術時間の長短などの関係も考慮され, そこには普通の無菌的操作だけでは解決できない多くの因子がある。したがつて, 術後の感染防止はきわめて厳重でなければならないが, 最近は抗生剤が好んで用いられ, その使用方法は諸家によつて異なり, また症例に応じて検討すべきであるが, 一般に術後最低5日間の投与を必要とする。しかし反面, 抗生剤を乱用することは耐性菌の発生を助長する惧れがあるとして, 抗生剤の使用制限を主張する者もある。したがつて, 術後の化学療法のあり方には非常に困難な問題が多い現状である。吾々は, 術後の感染予防の問題に関連し, 病院内空中菌を検索した。また, 術後の化学療法のあり方を検討する一助として, 過去6年間に各種の病巣から分離した化膿菌の動向, とくに薬剤耐性の発現率を調査した。その結果, 多くの耐性菌を見出したので, 手術にさいしては, 現在耐性発現率の最も少ない抗生剤を優先的に使用すべきであるという立て前から, 吾々は最近改良されたOxytetracycline注射液を32例の手術時に局所に使用した。