The Journal of Antibiotics, Series B
Online ISSN : 2186-5469
Print ISSN : 0447-8991
ISSN-L : 0447-8991
Colistin SulfateおよびSulfisomezol NaのProteus菌に対する併用効果 第1報
小野沢 陽蔵佐藤 征熊谷 勝男石田 名香雄
著者情報
ジャーナル フリー

1964 年 17 巻 2 号 p. 61-64

詳細
抄録

近年, 抗生物質ないし化学療法剤の投与によるヒトの常在菌叢の変動が, かなり注目されるようになつた。これらの常在菌叢は, 種々の生理的要因でも変動し得るものであるが, 抗菌作用の強力な薬剤の投与によつて常在の感性菌叢が減少あるいは消失し, 内因性または外因性の耐性菌増殖がおこり, これが定着すると, いわゆる菌交代症である1)。この場合, 感受性菌が減少することは当然であるが, 耐性菌が増加する理由は必ずしも明らかではない。支配勢力であつた感受性菌の減少に伴なつて生育環境 (pH, 酸素圧, 酸化還元電位, 利用しうる栄養源) のいずれかの要咽が弱少勢力であつた耐性菌に好ましい条件を与えるにちがいない。
人体各部位のうちで, 最も菌叢の変動がおこりやすいのは腸管内であり, ヒトの腸管内常在菌 (ミクロフロラ) としては,E. coli, Proteus, Klebsiella, Enterococci, 種々の嫌気性菌等があげられている。腸管感染のさい, 病原性グラム陰性桿菌の発育を阻止するような抗生物質を投与すると, 影響を及ぼされないProteus, Pseudomonas, 真菌等が増殖する可能性は増し, 場合によつて投与薬剤に耐性なブドー球菌, 大腸菌の増殖もあるわけである。
このようなことは, 尿路感染症においてもみられ,Proteus, Pseudomonasは慢性尿路感染症において, 2次的病原菌としてしばしば証明され, 一度侵されると, その根絶にかなり困難する。たとえば,Proteusを起炎菌とする尿路疾患のうちには, 急性, 慢性膀胱炎, 腎盂腎炎等が知られ, これらに対してPenicillin, Streptomycin, Colistin, Erythomycin等が用いられたが, そのほとんどが無効であつたという2)。また, 看護に用いた器具に起因すると思われるProteus菌による尿路感染症の病院内発生がおこり, 18%の死亡率をみたという報告もある3)。このさい, 抗生物質感受性の同一性から同一菌型と見なされた。さらに, 開放性創傷, 中耳の慢性感染, 床つれのような潰瘍部は, グラム陰性桿菌, 特にProteus, Pseudomonasの2次的感染部位となりやすい。いま,Proteus菌に焦点をしぼって考察すると, 創傷感染に由来した株と, 尿路感染に由来した株とでは, 抗生剤耐性の模様にいくぶんの相違があり, 前者のほうが耐性菌が多いとの報告もある4)。
我々は臨床材料, すなわち, 尿路感染症の尿と腸管感染症治療後の糞便から検出されたProteus speciesに対し, 抗生剤スペクトルをしらべたところ, Kanamycin以外はほとんど感受性のないことが判明した。これは上記, LATTIMER等の成績2)と軌を一にする。
私々としては, 今後, このような菌が出現したあとの治療法を考えると共に, このような菌が出現しないような化学療法も模索すべきであると考え,「単独薬剤投与では菌交代症を引きおこすことが少くなく, またこの菌交代症は多くはグラム陰性桿菌によることも衆知の事実である。そこで, この菌交代症を防止するためには出現を予想されるグラム陰性桿菌を選択的に抑制する薬剤を予め投与しておくことを積極的に考えるか, 或いはそれらが生育しないような生活環境をつくつておくべきではないか。」という問題点を提起して実験をすすめることとした。
前者の考えに従がつた場合, ColistinはPseudomonasに有効であるが,Proteus菌には全く無効とされている。逆に, KanamycinはPseudomonasに無効,Proteusに有効である。しかし, ColistinがSulfonamideと共にProteusに対して相乗効果を示すという試験管内実験成績は, すでにHERMAN5), TURNER6)によつて報告されており, 我々も偶然の機会にこの相乗効果のつよいことを気付いたので, その具体的応用性までを追求し, 上記の問題点に近よりたいと考えた。第1報には, 尿路感染症におけるProteus菌の位置とそれ等に対するColistin, Sulfonamideの併用効果に言及する。

著者関連情報
© 公益財団法人日本感染症医薬品協会
前の記事 次の記事
feedback
Top