The Journal of Antibiotics, Series B
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ペニシリン生産菌種の撰択法に関する研究 第4報
Q176株から得た単胞子分離株のPrecursor, 培地に対する選択性について その1
内田 豐三郎
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1953 年 6 巻 9 号 p. 459-463

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抄録

ペニシリンのタンク生産培養に使用する菌株は, 振盪培養で予め撰択をおこなつている。第3報においては, 振盪培養培地及び培養条件を検討し, 菌株の生産性を無理のないように発揮させて撰択をおこない, 次いで工業的制約の下に再撰択をおこなつて現場生産用菌株を決定する方法を採用した。そのため, 培地には菌体の生育とペニシリシ生産の両面に好結果を与えるコーンスティープリカー(C.S.L.) を使用し, Precursorとして加えたPhenylacetic acid (P.A.A.) も, この培地でペニシリン産生の制約因子とならぬよう, 充分と思われる量を分別添加した。このような方法で撰択した良菌株はP.A.A.以外のベニシリンG Precursorを加えた場合にも, 他の株と較べではたしてその優位を維持するか, 或いはC.S.L.以外の有機窒素源を培地に使用した場合にその性能はどうなるかという点については保証されていない。β-PhenylethylamineをPrecursorとして培養に添加して分離したといわれているWisconsin pigment-free Q 176株について, 生産ペニシリンG当りのP.A.A.量を調べて見ると, P.A.A.の相当量を加えて分離撰択して来た現在使用中のpigment-free Q 176株系の半分ないし数分のlであり (ペニシリン関西技術懇談会1951年5月発表), 糖代謝, 窒素代謝の模様にも差が認められる。このような菌株は彷徨的に出現しているものか, またはP.A.A.代謝に関する変異株であるのかも問題である。この問題はペニシリンの生物合成に際して重要な関係をもつ酵素系について各菌株毎にその撰択性の差とか, その強弱等を調べて見ると言つた酵素化学的研究をおこなつて論ずべき問題であるが, 先ずこれ等の関係を総括的に, また現象論的に様子を見るために, 振盪培養実験をおこなつて見た。
本報においては, 先ず昭和22年3月に日本ペニシリン学術協議会中央研究所菌株部から分与されたP. chrysogenum Q 176株の土壤保存胞子から得た単胞子分離株の1群についておこなつた実験について報告する。これらの菌は入手以来, 物理的, 化学的の処理は受けていない。

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