1976 年 29 巻 4 号 p. 358-365
細菌感染症の化学療法にさいして, とくに困難を感ずるのは, 大腸菌族の諸菌および類似菌によるグラム陰性桿菌感染例であり, 一般的に重症および難治のばあいが多い。これらに対して多くの化学療法剤が鋭意開発, 改良が進められてはいるが, 今だに臨床的に満足すべきものは少ない。Aminoglycoside諸剤は, 抗菌力は優れているが, 毒性も強く, Tetracycline剤, Chloramphenicolなどは殺菌性が弱く, また投与量の増加による副作用の発現が問題である。Penicillin, Cephalosporin諸剤は, 一般的に上記諸菌に対しては抗菌力は弱く, 比較的良好といわれるCB-PCでも, 2~10mcg/mlのOrderであるが, 毒性はきわめて低く, 1日10g以上の大量を使用しうるから, これによつてMIC値をうわまわる体液濃度を維持することが可能であり, 変形菌, 緑膿菌などによる感染症に対する治療が試みられている。
Sulbenicillin (SB-PC) も, すでに我々1) を含めて多くの報告にみられるように, 上記の諸菌に対する抗菌力は比較的良好であるため, 大量投与が可能であれば, これらの菌のMIC値をうわまわるだけの体液中濃度を保つことができると考えられる。一方, 動物実験によれば, 1,000~2,000mg/kg程度の大量投与時にも影響がみられず, またヒトに10~20g投与例でも, 特別な副作用はなかつたとされているので, 次のように臨床的にSB-PC大量投与の検討を試みた。