1981 年 34 巻 1 号 p. 7-15
急性白血病をはじめとする各種の造血器腫瘍では, 疾患の本態から穎粒白血球, リンパ球などの正常の生体防禦担当細胞に量的, 質的異常が起こるので, 感染症に対する抵抗力が著るしく減退する。さらに, 寛解導入のために施行される抗白血病化学療法によつて, 腫瘍細胞とともに, 一時的に正常細胞の造血が強く抑制されるので, 特にその間の感染症対策は患者の経過を左右する重要な問題である。不幸にして併発した敗血症, 肺炎などの重症感染症に対しては, 顆粒白血球輸血, 抗体含有グロブリン製剤投与などによつて抵抗力の増大をはかるとともに, 抗菌抗生物質による積極的な殺菌, 排除が必要である。このような生体防禦力の低下した状態では, いわゆる日和見感染によつて, グラム陰性桿菌などの弱毒菌による感染症が特徴的であり, それらに対してはアミノ配糖体抗生物質が一般に著効であるとされている。しかし, 本邦では注射の方法が筋注だけによるので, 血中濃度の調節, 出血傾向患者や, るい痩患者への投与に困難が感じられている。我々は, 感染症併発が疑われた造血器腫瘍患者に, アミノ配糖体製剤 (Amikacin, 以下AMK) の点滴静注をおこない, 血中濃度, 尿中排泄量, 副作用などを検討した。次に, AMK点滴静注療法により治療を試み, 菌消失, 下熱などの効果が得られた症例を経験したので, 臨床経過を加えて報告する。