2002 年 55 巻 4 号 p. 399-411
2000年9月から12月までの間に全国10施設において尿路感染症と診断された435症例から分離された588菌株を供試し, それらの患者背景について性別・年齢別と感染症, 感染症と菌種, 年齢別感染症別菌分離頻度, 抗菌薬投与時期別の菌と感染症, 感染防御能低下に影響を及ぼす因子・手術 (以下因子・手術) の有無別の菌と感染症などにつき検討した。
年齢あるいは性と感染症の関連についてみると, 男性の症例は50歳未満が少なく, 感染症ではカテーテル非留置複雑性尿路感染症が最も多かった。女性では20歳未満の症例が少なく, 感染症別には, 20歳代の症例は, ほとんどが単純性尿路感染症であったが, 40歳以上の症例は過半数が複雑性尿路感染症であった。感染症と菌種についてはEscherichia coliは感染症が複雑になるに従い減少し, Pseudomonas aeruginosaは感染症が複雑になるに従い増加した。また, Enterococcus faecalisは単純性尿路感染症よりも複雑性尿路感染症で高頻度に分離された。これらを年齢別にみると, 単純性およびカテーテル非留置複雑性尿路感染症では20歳以上の症例でE. coliの分離頻度が加齢に伴い緩やかに減少した。また, カテーテル非留置複雑性尿路感染症では, Klebsiella spp., P. aeruginosa, ならびにE. faecalisの分離頻度が高かった。カテーテル留置複雑性尿路感染症では, 70歳以上で, P. aeruginosaとE. faecalisが多く分離された。抗菌薬投与前後の分離菌は, 単純性尿路感染症およびカテーテル非留置複雑性尿路感染症では, 投与後に分離株数が著しく減少した。いずれの感染症でもE. coliは投与後に減少したが, P. aeruginosaは投与後に増加した。因子・手術の有無別, 感染症別に分離菌をみると, いずれの感染症においても, E. coliは因子・手術の無で多く分離され, P. aeruginosaは因子・手術の有で多く分離された。単純性尿路感染症では, Proteus spp., E. faecalisなどは因子・手術の有で著明に多く分離された。カテーテル非留置複雑性尿路感染症では, Klebsiella spp. が因子・手術の無で多く, E. faecalisは因子・手術の有で多く分離された。カテーテル留置複雑性尿路感染症では, P. aeruginosaとS. aureusを除き, ほとんどの菌種が, 因子・手術の無で多く分離された。