2007 年 7 巻 p. 50-69
明治から昭和戦前期の日本では、アーカイブズ=文書館の誕生をみることはなかった。しかし、旧藩県期の記録や太政官制期の編纂資料など、限られた種類のものではあったが、府県庁の情報資源=記録や書籍が図書館に移管され公開されていた。それは、郷土資料として国民教化に資する〈力〉の利用であったといえる。アーカイブズの持つ〈力〉が選別され制御された結果であった。
しかし、専門家団体を得た図書館の指導者たちは、県庁記録を含めた郷土資料の蓄積を進め、「府県行政の参考機関」としての府県立図書館を提唱し、さらには「文書館独自の使命と機能」を認めてその設置を求めていた。
戦後、他にも数千点規模の県庁記録が図書館に移管される府県があるなかで、日本最初の文書館が山口県立山口図書館から誕生した必然性は、戦前期におけるこれらの経験と蓄積の出会いにあった。