年報カルチュラル・スタディーズ
Online ISSN : 2434-6268
Print ISSN : 2187-9222
投稿論文
大正後期における路上の芸術活動とデモクラシー
――マヴォの美学と坪内逍遥のページェント劇――
上田 由至
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2022 年 10 巻 p. 125-147

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抄録
 「ストリート」という言葉は、近年のカルチュラル・スタディーズにおいて一つのキーワードとなっている。しかし、そこでストリートは概して社会運動のための肯定的な空間としてとらえられ、国家や資本の権力による抑圧と、ストリートの市民による抵抗という二項対立が設定されがちである。本稿はこうした現状に異を唱え、路上を取り巻くより複雑な力学の一端を示そうとするものである。そのために、ここでは大正後期の路上の芸術活動を対象に考察を進める。なぜなら大正後期という時代は、デモクラシー運動が高まりを見せた一方で、その後の軍国主義にもつながっていくような、混迷の時代だったと言えるからである。
 本稿ではとくに、大正期新興美術運動の中核を担うグループであるマヴォの活動と、劇作家坪内逍遥のページェント劇とを分析する。両者はどちらも芸術のための制度的な空間から脱し、民衆が生活を営む路上という空間へと出ていこうとする活動だったという点で共通しているのだが、それが意味するところは全く異なるものであった。一方でマヴォが民衆の生活と芸術とを組み合わせることよって、民衆を触発するとともに、自分たち自身が民衆へと生成変化することを試みていたのだとすれば、坪内は民衆の「能動的」な「参加」や「デモクラシー」を称揚していたにもかかわらず、その意図は民衆の雑多な文化を廃して芸術性の高い新たな民衆文化へと統一するとともに、民衆たち自身をも「国民」へと統一することで、秩序ある路上空間を生産することであった。路上の活動はこのように、路上を使うという一点をもって肯定できるものではないのであり、さらにはデモクラシーという概念も問われ直されなければならないのである。
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