Anthropological Science (Japanese Series)
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原著論文
古代DNA分析による中世専業集落の形成過程の検討 ―村松白根遺跡出土人骨のミトコンドリアDNA分析
坂平 文博
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2007 年 115 巻 2 号 p. 85-95

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抄録

茨城県東海村に所在する村松白根遺跡は,発掘された遺物と遺構から中世における製塩業に従事していた人々の専業集落であると推定されているが,遺跡自体がどのような来歴を持つ人々によって形成されていたかは明らかではない。本研究では,この遺跡から多数出土した中世人骨のミトコンドリアDNAを解析することによって得られた,村落の遺伝的な構成に関する情報からこの問題を検討した。古代DNA分析の手法を用いて,74個体の人骨のミトコンドリアDNAのコントロール領域と遺伝子のコーディング領域の塩基配列の決定とAPLP法による遺伝子のコーディング領域の一塩基多型の検出を試みた。その結果,解析した人骨の49個体からDNAデータが得られ,それらは29種類のハプロタイプから構成されていることが判明した。このことは村松白根遺跡が異なる母系を持つ多様な人々から形成されていたことを示している。また,ハプログループの頻度をもとに計算したクラスター分析の結果は,村松白根遺跡の人々が現代本土日本人や中世鎌倉の人々に近い集団であることも明らかにした。本遺跡がこの地方における製塩業の操業期間のなかでも最初期に属するものであることを考えると,村松白根遺跡における製塩業は様々な地域から移入してきた人々によって始められたものであったという可能性が示唆される。本研究は中世村落を対象とした古代DNA分析が,その形成過程の解明に有力な手掛かりを与えることができることを示している。

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© 2007 日本人類学会
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