Anthropological Science (Japanese Series)
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総説
質量分析を利用したプロテオミクスの考古学・古人類学における応用
澤藤 りかい蔦谷 匠
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2020 年 128 巻 1 号 p. 1-19

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抄録

従来の免疫的な手法によるタンパク質の検出と異なり,質量分析を利用したタンパク質の分析は,微量のタンパク質も検出でき,誤同定の恐れが小さく,処理能力が高く,未知のタンパク質を網羅的に解析できるという利点をもつ。2010年代以降,考古・人類学的な資料として学術的意味をもつ生物遺物体に存在する過去のタンパク質を,質量分析計を用いてハイスループットまたは網羅的に分析する古代プロテオミクスの研究が盛んになってきた。こうした古代プロテオミクスの手法は,特定のタンパク質のスペクトルパターンから分類群を判別するペプチドマスフィンガープリンティング(ZooMSなど)と,試料中に存在するタンパク質を網羅的に同定するショットガンプロテオミクスに分類できる。現在行なわれている古代プロテオミクスの研究は,生物試料の分類群の判別と系統推定,遺伝情報の推定,有機物の同定,生理状態をあらわすタンパク質の検出,食性の推定,という5つのカテゴリーに大別できる。質量分析によるプロテオミクスに一般的な問題や,過去の試料を分析する際に特有の問題があるものの,古代プロテオミクス分析の利点を活かした研究は今後さらに増加し多様化していくものと予想される。

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© 2020 日本人類学会
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