成人期縄文人の四肢プロポーションは,現代日本人と比べると,上肢では上腕骨に対して前腕骨が長く,下肢では大腿骨に対して下腿骨が長いことが知られている。本研究では,縄文人四肢骨のプロポーション特徴についてさらに理解を深めるため,胎生5ヶ月から19歳にわたる縄文人118体と現代日本人311体の主要四肢骨を用いて各種のプロポーション示数(上腕骨橈骨示数,大腿骨脛骨示数,肢間示数など)の集団比較を行った。その結果,(1)縄文人四肢骨の遠位分節が相対的に長いという特徴は,上肢・下肢ともに胎・乳児期に発現しており,その特徴は思春期の終わりまで一貫して保持されていることがわかった。特に上肢に関しては胎生期の段階で明瞭な集団差を確認することができ,発生初期における四肢パターン形成の影響が考えられた。また,(2)どちらの集団も,上肢・下肢の各遠位/近位分節比は,胎児段階では成人と比べて著しく遠位分節の長いプロポーション傾向を示すが,おおよそ1歳半の時期に成人水準に到達しており,その後の成長では思春期の終わりに至るまで成人的なプロポーション状態が保たれることがわかった。さらに,興味深い所見として,(3)幼・児童期の縄文人は,上腕骨の伸長パターンが現代日本人とは有意に異なっており,この期間では上腕骨の伸長速度が相対的に遅くなる様子が観察された。これは従来指摘されてきた成人期縄文人の上腕骨が部位特異的に短いという形質と関係する可能性が考えられた。
抄録全体を表示