善玉菌Bifidobacterium bifidumは宿主の糖鎖を分解して栄養源にするために,細菌細胞壁に結合した様々な糖質加水分解酵素 (glycoside hydrolase, GH) を持っている.しかし,そのGHの多くは既報のタンパク質構造と配列同一性が低く,分子機能の推測が困難である.我々はムチン糖鎖の硫酸化core 2 O-glycan代謝経路に関与するGH20 sulfoglycosidase (BbhII) とGH110 α1,3-galactosidase (AgaBb) を対象に研究を行ってきた.BbhIIはムチン糖鎖に含まれる6位が硫酸化されたGlcNAcに対して特異性を示す.他方でAgaBbはB型血液型抗原を特異的に認識し,H抗原に分解する血液型変換酵素である.我々は構造生物学,酵素学,そして生化学の観点からそれぞれの酵素を構成するドメインの特徴付けを試みた.本稿ではこの研究を通して得られた成果について述べる.今後,ビフィズス菌が独自に獲得してきたタンパク質の構造や分子機能を探求していくことでヒトとビフィズス菌の共進化の理解を深めると共に,新たな善玉菌の増殖制御因子の発見や有用糖質の合成系の設計などの展開が期待される.