2025 年 15 巻 2 号 p. 120-124
白色腐朽菌は担子菌類に属し,木材や農産廃棄物などのリグノセルロース性の資源を培地として効率的に成長可能な特異な生物群である.その菌糸体はサステイナブルな素材として注目され,マッシュルームレザーなどの代替マテリアル産業は,欧米を中心に急速に発展し,将来の循環型社会を支えるマテリアルとして市場拡大が進んでいる.現在その開発には,用途に応じて天然からスクリーニングされた菌が利用されているが,それらでは実現できないような強度や機能性を持つマテリアルを開発するには,白色腐朽菌を育種し性質改変できるような技術開発が必要となる.菌糸マテリアルの性質には,菌糸の細胞壁構造が関係していることが報告されているが,一般的に糸状菌の細胞壁は,β-1,3/1,6-グルカン,キチン,α-1,3-グルカンといった多糖とタンパク質を主成分としており,子嚢菌を中心にその構造が解析されてきた.一方担子菌類の細胞壁は,構造・合成・制御機構の何れもほぼ研究が進んでいない.本稿では,白色腐朽菌の細胞壁多糖構造・合成・制御機構の解明及びその改変技術の確立に向けて,ヒラタケPleurotus ostrearusをモデルに実施中の取り組みを紹介する.