運動の実行を伴わない安静状況下であっても, 感覚入力によって, あたかも自分が運動しているかのように知覚している心理的状態を自己運動錯覚という. 我々は, 視覚刺激を用いて四肢運動の自己運動錯覚を誘導し, それによって生じる神経活動に関する研究を継続してきた. 本総合論文では, まず, 機能的磁気共鳴画像法を用いた脳神経回路活動に関する研究を紹介する. この研究では, 単に動画を観察しているときと比較して, 錯覚中には, 一次運動野以外において実際の運動中に賦活する多くの領域を含む脳神経回路が賦活している結果が得られた. さらに, この運動錯覚を2例の脳卒中片麻痺患者に適用し, 運動機能に対する影響を調べた. その結果, 動作中に記録した筋電図から, 即時的影響として相反的な筋活動が検出された. 現時点では, 臨床的な影響は明らかでないものの, 今後, 系統的な臨床試験を実施する意義があることを示す結果であると考える.