本稿の目的は明治期府県管内図の網羅的な検討を通じてその特徴を考察することであり、特に地図の作成主体や神奈川県の事例に注目した。まず総体的な特徴を把握するため、国立公文書館に所蔵される府県管内図のうち、府県ごとに最も発行年代が古いものをリスト化した。その結果、結城正明や江島鴻山といった印刷技術者のネットワークや、出典としての伊能図という観点から、内務省地理局における地図作成の動向との関連性が指摘できた。また神奈川県の場合は明治一○年代までに発行された管内図が三点あり、うち二点は明治一一年を遡る早い時期のもので、もう一点は鴻益社という民間の印刷業者から発行されたものであった。前者は統計表と一体のものである点、後者は横浜近郊の農村部を対象にして予約出版を試みた業者が発行した点に特徴があった。