蘚苔類研究
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Print ISSN : 1343-0254
rbcLシークエンスデータに基づくハイゴケ目(蘚類)の分子系統
坪田 博美中尾 成身有川 智己山口 富美夫樋口 正信出口 博則関 太郎
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1999 年 7 巻 8 号 p. 233-248

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抄録
ハイゴケ目Hypnalesは,蘚類の中でもっとも多様化した分類群の一つである.分類学的に混乱しているハイゴケ目蘚類の科および属の系統関係を明らかにするため,rbcL遺伝子の塩基配列データを用いて分子系統学的研究をおこなった.本研究では11種のハイゴケ目蘚類のrbcL塩基配列データを新たに得ることができた.得られたデータは,GC含量,全長ともに既知の蘚苔類のデータと大きな違いは見られなかった.得られたデータと既知のデータをあわせた34種のデータをもとに,近隣結合法,最小進化法,最節約法および最尤法を用いて系統関係を推定した.各方法から得られた系統樹は,お互いに類似したものとなり,大きな違いはなかった.得られた系統樹からハイゴケ目の単系統性は支持されず,また各分類群の関係は非常に近い関係にあることが明らかになった.カガミゴケ属Brotherellaは,ハイゴケ科HypnaceaeとされてきたイトハイゴケHypnum tristo-virideと,これまで胞子体が見つかっておらず所属がはっきりしていなかったイトクサゴケHeterophyllium nematosumを含むかたちでその単系統性が強く支持された.さらに,これまでカガミゴケ属との関係においてあまり議論されてこなかったツヤゴケ科Entodontaceaeのツヤゴケ属Entodonがカガミゴケ属に近い関係にあることが明らかになった.また,今回得られた系統樹は,アオギヌゴケ科Brachytheciaceaeなどの中肋が一本の分類群がハイゴケ目の進化の初期に分岐したというVitt(1984)やBuckとVitt(1986)の見解を支持しなかった.これらの結果は,これまでのハイゴケ目内の科の概念をあらためて考え直す必要があることを示唆している.
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1999 日本蘚苔類学会
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