2021 年 71 巻 9 号 p. 54-87
日本のテレビドキュメンタリーの基礎を築いた『日本の素顔』(NHK、1957~64)の制作技法を探る4回目。今回は、1960年度(60年4月~61年3月)に放送された36本のテクストの中から、技法的に特徴的な8本を選んで分析する。空前の好景気の中で、安保闘争をはじめとした社会的大事件が相次いだこの年、ルポルタージュや、調査報道といった報道的なドキュメンタリーの技法が開花した。一方で番組初期から存在していた、作り手が特権的な視座から社会批評を展開するタイプのテクストの中には、時代の激動に直面して批評の主体性を失ったものが見られる。テクスト外の状況では、それまでテクスト末尾に表示されていたディレクター名が60年11月以降消えたことで、作り手たちの表現者としてのステータスが変化したことが重要である。