放送研究と調査
Online ISSN : 2433-5622
Print ISSN : 0288-0008
ISSN-L : 0288-0008
連載  メディアは社会の多様性を反映しているか ③
将来に向けた危機感を問うアメリカの事例と専門家の提言
青木 紀美子大竹 晶子小笠原 晶子
著者情報
研究報告書・技術報告書 フリー

2023 年 73 巻 1 号 p. 64-87

詳細
抄録
メディアが社会の多様な人々の姿や現実,視点や価値観を反映することは,発信する内容の正確さ,公平さ,豊かさを担保するために欠かせない。さらにデジタル化で情報や娯楽の選択肢が広がる中で,身近で有用かつ信頼できるメディアとして「選んでもらう」こと,すなわち将来の存続のためにも重要な課題になっている。#MeToo運動,コロナ禍,Black Lives Matter 運動を経て,社会や情報通信環境の急速な変化にも押され,その認識と危機感を深めたアメリカでは,組織の体制,登用する人材,そして発信するコンテンツに登場する人の多様性を向上するための戦略や目標を示し,実績を報告するメディアが増えている。報道の現場では取材対象の多様性を点検・モニタリングして公表する動きや,多様な取材対象のデータベースをつくり,活用する試みも広がっている。多様性向上に長年取り組んできた全米公共ラジオNPRのキース・ウッズ氏は,メディアの役割は格差のある社会を反映することではなく,多様な視点を伝えることであり,多様な人々が自分を重ねて見ることができるような存在を示すことが重要だとしている。また,日本のメディアの多様性欠如について問題提起してきた東京大学の林香里氏は,多様な人々の声やその課題が可視化されることによって当事者が現状を変えていく力を得ることや,現実社会で小さくなっている人々をより大きな存在にしていくことによって皆がより暮らしやすい社会をつくることができると指摘している。
著者関連情報
© 2023 NHK放送文化研究所
前の記事 次の記事
feedback
Top