抄録
情報源の選択肢が限りなく広がるデジタル時代にあって、世界の公共放送は公共メディアへの転換をはかりながら、新たなメディア環境における役割や位置づけを模索している。その知見から学ぶため、NHK放送文化研究所の海外メディア研究グループは、2022年11月に東京で開催されたPBI(Public Broadcasters International、国際公共放送会議)に参加した公共メディアの代表ら6人にインタビューを行い、それぞれが直面する課題や、公共メディアが果たすべき役割などについて聞いた。
連載3回目の本稿では、台湾PTSの徐秋華社長と、オーストラリアABCの上級ストラテジスト、デビッド・サットン氏の話を紹介する。
サットン氏は、誰もがひとしく地域に根ざしたニュースや、その国や地域の文化を反映した良質なコンテンツを得られるように保障するのが公共メディアで、新聞の廃刊などで各地に「ニュース砂漠」が広がる中、その役割は重要性を増していると述べた。一方で、公共メディアの正当性や必要性に疑問を呈し、その活動範囲や財源を制限する動きもあり、そうした中で、政治に左右されず独立性を維持し役割を果たしていくために、何よりも重要なのは人びとの信頼だと述べた。
徐氏は、「デジタルファースト」を強調し、台湾の内外向けに多様なプラットフォームでコンテンツを発信すること、若い世代の力を生かしつつベテランの知識や経験を継承できるDX(デジタルトランスフォーメーション)の重要性を訴えた。また、地政学上、偽情報対策や情報セキュリティーにも力を入れていると明らかにした。