放送研究と調査
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73 巻, 6 号
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  • デジタル化で問い直される公共放送の任務,サービス,組織
    杉内 有介
    2023 年 73 巻 6 号 p. 2-29
    発行日: 2023/06/01
    公開日: 2023/06/20
    研究報告書・技術報告書 フリー
    ドイツでは2016年に、公共放送の財源である放送負担金の値上げ問題をきっかけとして、公共放送改革の議論が16州政府の主導で始まった。議論は2つの方向で進んだ。1つは、公共放送の組織とサービスの合理化を進めて経費削減を求めるもので、もう1つは、動画配信サービスやソーシャルメディアの普及といった近年のメディア環境の変化を踏まえて、公共放送の任務規定から見直そうとする、より包括的なアプローチだった。しかし、これらの議論はなかなか成果に結びつかなかった。 2022年11月にようやく、後者の議論の成果として、放送法の改正が成立した。主な改正点は、デジタル情報空間における公共放送の任務の再定義、放送からインターネット配信へのより迅速な移行を可能にするサービス委託の形式の変更、内部監督機関の権限強化などである。 また、2022年夏に起きた公共放送のスキャンダルをきっかけに、ARD(ドイツ公共放送連盟)会長が、公共放送の組織とサービスの再編にまで踏み込んだ抜本的な改革が必要だとする提言を行った。これに答える形で、2022年11月以降、州政府側と公共放送側の双方で、改革に向けた取り組みが再始動し、現在も進行中である。 本稿では、2016年に始まり現在にまで続く、こうしたドイツの公共放送改革の紆余曲折した歩みを跡付けた。その中で、デジタル化の進展が、ドイツの公共放送の任務、組織、サービスのあり方にどのような課題を突きつけているのか、また、どのように解決が模索されているのかを明らかにした。
  • 2022年度「中学校教師のメディア利用と意識に関する調査」から
    宇治橋 祐之, 渡辺 誓司
    2023 年 73 巻 6 号 p. 30-63
    発行日: 2023/06/01
    公開日: 2023/06/20
    研究報告書・技術報告書 フリー
    NHK放送文化研究所では,全国の学校現場におけるメディア環境の現状を把握するとともに,放送,インターネット,イベントなどNHKの教育サービス利用の全体像を調べるために,1950年から定期的に学校を単位として,あるいは教師個人を対象として全国調査を行ってきた。全国の小・中学校で「児童生徒向けの1人1台端末」と「高速大容量の通信ネットワーク」を一体的に整備するGIGAスクール構想の本格的な運用が始まり2年目となる2022年度は、1人1台端末の授業での利用だけでなく、家庭への端末持ち帰りとその利用状況を把握するために、中学校の教師個人を対象とした。対象教科は初めて5教科(理科、社会、国語、外国語、数学)としている。 GIGAスクール構想前の2019年度の結果と比べると、タブレット端末を利用できる環境にある教師が大幅に増加(63%→91%)、インターネットを利用できる環境にある教師(77%→93%)も増えていた。 また、生徒に1人1台ずつ配付されたパソコンやタブレット端末(「GIGAスクール端末」)を授業で生徒に利用させている教師は、5教科全体で87%であった。さらに授業で「GIGAスクール端末」を生徒に利用させている教師でみると、6割を超える教師が「家庭への持ち帰り学習」を行っていた。 授業でのメディア教材の利用についてみると、「指導者用のデジタル教科書」(33%→49%)の利用と、NHKの学校放送番組あるいはNHKデジタル教材のいずれかを利用していた「NHK for School教師利用率」(38%→49%)が増加していた。また、教科別にみると理科と社会で「NHK for School教師利用率」、外国語で「指導者用のデジタル教科書」と「学習者用のデジタル教科書」の利用が多く、教科による違いがみられた。 教師が生徒の家庭学習に行っている支援については、「紙の市販ドリルやプリント教材」「教科書」を利用した紙教材での支援が7割で多かった。ただし「アプリなどデジタルのドリル教材」など、生徒が家庭でパソコンやタブレット端末を利用して行う「デジタル教材」での支援も6割で、家庭学習の支援が多様化している様子もみられた。 またビデオ会議や資料共有、コミュニケーション機能などがある、授業と家庭学習で利用できる「学習支援ツール」は、84%の教師が利用していた。 GIGAスクール構想の実現で、教室のメディア環境は大きく変わった。家庭のメディア環境の差などの課題はあるが、授業と家庭学習を繋げられる「NHK for School」や「学習者用のデジタル教科書」などのメディア教材と「学習支援ツール」などを利用することで、生徒の学びをどう広げていけるのか、学校と家庭の両方を見渡した学習支援のトータルデザインを考える必要があると考えられる。
  • 「中学生・高校生の生活と意識調査2022」から②
    村田 ひろ子
    2023 年 73 巻 6 号 p. 64-75
    発行日: 2023/06/01
    公開日: 2023/06/20
    研究報告書・技術報告書 フリー
    NHKが2022年夏に実施した「中学生・高校生の生活と意識調査」の2回目となる今回の報告では、中高生と父母のジェンダーをめぐる意識に焦点を当てる。 大学まで進学を希望する女子は54%で、40年間で初めて男子(48%)を上回った。父母の結果をみても、10年前は、「大学まで」進学させたい親は、女子よりも男子の父母で多かったのに対し、2022年はこうした差はみられなくなった。 進学意向では男女差が解消されつつある一方で、家庭内に目を向けると、親による子への接し方は、子の性別によって異なる傾向がある。男子に対しては、「勉強が遅れている」「意思が弱い」と考える父母が多い。また、「男らしく、女らしく育てる」という考え方に賛成なのは、男子の父親で7割に上る。 それでも、中高生の多くは、伝統的な男女の役割分担にとらわれることなく、多様性に対しても寛容である。仲のよい友だちから「からだの性とこころの性が一致しない」と打ち明けられたら『理解できる』と回答したのは中学生で7割近く、高校生で8割に上る。父母の子育ての分担は、10年前から変わらず『母親主導』が多いが、中高生が思い描く将来の夫婦の子育て分担は、「父親も母親も同じくらいする」が多く、10年前の5割から7割へ大きく増えている。
  • オーストラリアABC,台湾PTS
    青木 紀美子, 佐々木 英基, 小山 里司
    2023 年 73 巻 6 号 p. 76-90
    発行日: 2023/06/01
    公開日: 2023/06/20
    研究報告書・技術報告書 フリー
    情報源の選択肢が限りなく広がるデジタル時代にあって、世界の公共放送は公共メディアへの転換をはかりながら、新たなメディア環境における役割や位置づけを模索している。その知見から学ぶため、NHK放送文化研究所の海外メディア研究グループは、2022年11月に東京で開催されたPBI(Public Broadcasters International、国際公共放送会議)に参加した公共メディアの代表ら6人にインタビューを行い、それぞれが直面する課題や、公共メディアが果たすべき役割などについて聞いた。 連載3回目の本稿では、台湾PTSの徐秋華社長と、オーストラリアABCの上級ストラテジスト、デビッド・サットン氏の話を紹介する。 サットン氏は、誰もがひとしく地域に根ざしたニュースや、その国や地域の文化を反映した良質なコンテンツを得られるように保障するのが公共メディアで、新聞の廃刊などで各地に「ニュース砂漠」が広がる中、その役割は重要性を増していると述べた。一方で、公共メディアの正当性や必要性に疑問を呈し、その活動範囲や財源を制限する動きもあり、そうした中で、政治に左右されず独立性を維持し役割を果たしていくために、何よりも重要なのは人びとの信頼だと述べた。 徐氏は、「デジタルファースト」を強調し、台湾の内外向けに多様なプラットフォームでコンテンツを発信すること、若い世代の力を生かしつつベテランの知識や経験を継承できるDX(デジタルトランスフォーメーション)の重要性を訴えた。また、地政学上、偽情報対策や情報セキュリティーにも力を入れていると明らかにした。
  • 「税金,財政支出,国の借金」と不偏不党
    税所 玲子
    2023 年 73 巻 6 号 p. 92-97
    発行日: 2023/06/01
    公開日: 2023/06/20
    研究報告書・技術報告書 フリー
    2023年1月、イギリスの公共放送BBCは、重要な規範のひとつにかかげる「不偏不党」が、自らのコンテンツの中で実現できているのか、第三者による検証の結果を発表した。不祥事をきっかけに、取材規範の徹底を迫られたBBCが実施を決めたもので、第1回目のテーマは「税金、公共支出、国の借金」だった。検証を行った学識経験者らは、このテーマについて取り上げた1万1000点を超えるコンテンツを点検し、このうち1000点について詳細な分析を行った。分析にあたっては、可能なかぎり多種多様な意見が反映されているかが重視され、点検項目は正確性やデータの利用方法、インタビューの質問やそのトーンなどを網羅した。BBCは、政治・社会の分断が広がり、ソーシャルメディアで様々な意見が飛び交う時代を迎え、「偏向している」「公平でない」という批判を受けることが増えているが、報告書は、「政治的な偏向」は認められなかったものの、思い込みや認識のずれが散見され、それが不偏不党の実現を妨げていると結論づけた。
  • NHK 札幌放送局 「ローカルフレンズ滞在記」の試み
    高橋 浩一郎
    2023 年 73 巻 6 号 p. 98-101
    発行日: 2023/06/01
    公開日: 2023/06/20
    研究報告書・技術報告書 フリー
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