2003 年 52 巻 2 号 p. 127-138
ダイオキシン類等の大気汚染状況を正確に把握するためには,天候及び時間変動に左右されない環境試料の選択及び試料捕集法が重要な因子の一つとなる.従来行われている大気の短時間捕集法では時間変動が大きいことが判明している.しかし近年,大気汚染の長期的な指標として常緑針葉樹葉の有効性が指摘され始めている.本研究では,その常緑針葉樹葉を用いて大気中の塩素化ナフタレン(PCNs)及びダイオキシン類の測定を行った.特に底質試料について有効性が確認されているporous graphitic carbon(Hypercarb)カラム及びpyrenyl silica(PYE)カラムを併用したダブルカラム高速液体クロマトグラフ精製法を用い,53種のPCN異性体の詳細分離・分析に成功した.この方法を用いて,東京湾全周を含む20地点の定点観測地点から選択した5地点の常緑針葉樹葉(クロマツ)を分析し,含有されるPCNs濃度を測定した.その結果,選択された5地点のクロマツ葉中のPCNs濃度は630~1750 pg/g,wet wt. であった.東京湾底質と比較すると,PCN低塩素同族体(tri-,tetraCN)及び焼却炉由来のPCN異性体の存在割合が高かった.PCNsは焼却炉等,環境中での二次生成の可能性が高く,本研究で開発した簡便迅速・異性体詳細測定手法はPCNs等,ダイオキシン類似強毒性環境汚染物質について給源推定と危険性評価を行うための分析法として期待される.