抄録
シグマ-1受容体は中枢や末梢神経系において情報伝達物質放出の調節に関係していることが判明しており,統合失調症,ストレス性疾患,認知症,筋萎縮性側索硬化症(ALS),癌など多くの疾患との関係も報告されている.したがって,シグマ-1受容体を定量化できれば,種々の疾患の病態生理,進行度(重症度)の把握,早期診断が可能と成り得ると共に治療指針決定のための情報が得られる可能性がある.放射性プローブを投与し,そのプローブから放出される放射線を専用のカメラで画像化する,いわゆる,ポジトロン断層撮影(Positron Emission Tomography, PET)や単一光子放射断層撮影(Single Photon Emission Computed Tomography, SPECT)を用いた分子イメージング(核医学診断)により,非侵襲的に生体内の代謝や機能を定量可能であり,現在,PETやSPECTを用いる核医学診断的手法のみがシグマ-1受容体を定量可能である.そのため,シグマ-1受容体を特異的に画像化する分子プローブの開発の期待は大きい.本稿では,著者らが進めてきたシグマ-1受容体を標的とした放射性ハロゲン標識分子プローブの開発についての研究成果を紹介する.