抄録
房総丘陵のヒメコマツは標高の低い地域に分布し,最終氷期の遺存種と考えられていることから貴重な個体群であるが,近年は急激に個体数が減少し,個体群消失のおそれがある.そこで,天然個体の遺伝子の保存と,その遺伝子を継承する種子の生産技術を確立するため,天然個体のつぎ木苗から採取した穂を用いたさし木方法及びつぎ木方法の検討と,天然個体のつぎ木苗を用いて造成したクローン集植所における健全種子生産の可能性及び種子を長期貯蔵するための温度条件を検討した.1.天然個体のつぎ木苗から採取したさし穂を用いたさし木は発根率が0.2%と低く,天然個体の遺伝子の保存には適さないと考えられた.2.天然個体のつぎ木苗から採取したつぎ穂を用いたつぎ木の活着率は,ヒメコマツを台木とした場合が63.8%でクロマツを台木とした場合よりもやや高く,ヒメコマツを台木としたつぎ木は天然個体の遺伝子保存方法として適していると考えられた.3.クローン集植所の造成により,造成4年後の2013年には全体の83%にあたるクローンで合計1万粒以上の健全種子が生産でき,天然個体群の遺伝資源を継承する種子生産方法として有効であることが確認できた.4.長期貯蔵した種子の発芽率は,冷蔵貯蔵(4℃)では3年後で90%,冷凍貯蔵(-20℃)では7年後で74%と高く,温度管理によって長期貯蔵が可能なことが明らかになった.