質的心理学研究
Online ISSN : 2435-7065
頻回転職の意味の再検討
13 回の転職を経たある男性の語りの分析を通して
安藤 りか
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2014 年 13 巻 1 号 p. 6-23

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抄録

一般に,わが国では学校卒業後すぐに就職した企業に定年まで勤める雇用慣行が根強いとされ,頻回転職は,例外的な現象,または社会的弱者や精神的病者の問題として研究上扱われてきた。本論では,頻回転職を弱者や病者の問題とする観点から離れ,頻回転職に潜在する意味を再検討することを目的として,中学校教師を初職とし,その後 13 回の転職すべてを自発的に行った 40 代男性の語りとその心理プロセスを分析した。その結果,生活と職を分け隔てない職業観,大幅な地域移動に対するこだわりのなさ,個々の職における学びの志向性,という 3つの際立った特徴と,それらの非西洋文化的視点による検討の必要性を析出した。そこで,それをさらに検討し,日本で古来より庶民に親しまれている,仏教の「華厳経」に登場する人物「善財童子」をメタファーとして用いた新規のキャリアモデル「善財童子キャリア」を構成した。このモデルは西洋文化的な個人性(individuality)とは異なる,関係性を重視する個別性(eachness)の涵養に貢献するモデルであると期待できる。

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© 2014 日本質的心理学会
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