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アゾ色素投与白鼠肝の核酸脱アミノ酵素について
岸 三二春野 勝彦
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1954 年 45 巻 1 号 p. 51-58

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抄録

バターイエロー投与によつて白鼠に肝癌が実験的に生成される過程において, 肝酵素の活性度を調べることは肝の正常機能が癌化するに伴つておこる変化を酵素学的に追究することである。
白鼠にバターイエローを投与し, 約150日経過し後正常食に数週間もどしたものの肝を選んだ。これを肉眼的に観察して肉眼的正常, 表面不平滑, 硬変肝, 肝癌に区別して取り扱つた。対照として米食の正常白鼠の肝および牛肝未飼与白鼠の肝を用いた。酵素液は水均質液を用い, 緩衝液と基質としてRNA (メルク製) あるいはDNA (牛脾より分離) の2%溶液を用いた。これら混合液を38°C, 24時間保存後, Folin 氏法により遊離したアンモニアを定量して脱アミノ作用の活性度とし, 生組織1g当りに算出して比較した。この際白紙試験によつて得た値を差引いた。
活性度をpH曲線によつてみるとRNA脱アミノ酵素では二つの極大値 (pH 5-6および10-11) を認めた。酸性側の極大値においては正常肝よりDAB投与白鼠の肝は活性度が大で肉眼的正常肝は高く, 表面不平滑肝を最高として硬変肝となつて下り, 肝癌に至つて活性度は再び正常肝に近づく, アルカリ性側の極大値をみると肝病変の亢進に伴つて階段的に活性度を増し, 肝癌では顕著に高い値を示した。DNA脱アミノ酵素はpH曲線中にさきと同様に二つの極大値 (pH 6および9) をみた。酸性側の極大値においては硬変肝の示す活性度が最も高く, 肝癌はこれに次ぐが正常肝よりなお著しく高い。アルカリ性側の極大値においては, 正常肝より病変肝は著明に活性度を示すが病変肝相互の差異は明らかでない。
核酸の如き酵素作用をこうむる個処の多い復雑な物質を基質として選んだため, 肝の水均質液によつて核酸分子に相異なつた酵素作用が同時にあるいは連鎖的におこりうる。われわれはそのうち脱アミノ作用のみに注目して活性度を比較検討したのであるから, なお多くの問題が残されているはずである。われわれは本実験において組織増殖の問題に直結している物質である核酸を採り上げて基質とし, 核酸脱アミノ作用の著差が肝の組織の悪性変化に伴つておこることを認めた。要約すればRNAおよびDNA脱アミノ酵素の活性度は病変肝において常に対照より亢進していることである。

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