抄録
細胞の初期状態に依存しない細胞種多様化を実現する人工遺伝子回路は,複数の細胞種への分化誘導のツールとしての利用が期待できる.本研究では,多様化後の二つの細胞種比率が初期状態に依存しない細胞種多様化を実現するための人工遺伝子回路,Symmetric Diversity Generator (SDG)を設計した.SDGは,二つのリプレッサーによる相互抑制と,二つの拡散性アクチベーターによるリプレッサー生産・拡散性アクチベーター生産のアンバランス補正との二つの機構からなる.多様化後の細胞種比率の初期状態依存性の計算機解析から,SDG設計には改善の余地があることが分かったため,二つのアプローチで設計の改善を行った.一つ目は,拡散性アクチベーターの分解速度を上げるアプローチ,二つ目は,拡散性アクチベーターやリプレッサーに対するリプレッサー生産の感度を下げるアプローチである.SDGと同様の計算機解析から,二つ目のアプローチによって細胞種比率の初期状態依存性が大きく改善されることが分かった.これは,リプレッサー生産が大きく変化する前に拡散性アクチベーターのアンバランス補正が働くことができるようになったためであると考えられる.感度に注目した二つ目のアプローチは,すでに報告されている人工遺伝子回路のパフォーマンス向上のための簡便な方法としての利用が期待できる.