茶業研究報告
Online ISSN : 1883-941X
Print ISSN : 0366-6190
ISSN-L : 0366-6190
茶葉化学成分の環境による変異
品種茶葉の地域変異について
鳥井 秀一古谷 弘三太田 勇夫金沢 純
著者情報
ジャーナル フリー

1954 年 1954 巻 4 号 p. 47-64

詳細
抄録

1. 1949~1951年の3ヵ年にわたり1,2,3番茶期に鹿児島,静岡,埼玉より採集した品種やぶきた(緑茶用)及びべにほまれ(紅茶用)の茶葉を分析し,更にそれら茶園土壌の熱塩酸可溶成分を定量して,化学成分の地域変異を調べた。
2. 分析項目は全窒素,可溶窒素,カフェイン,タンニン,熱湯可溶分,粗繊維,粗灰分及びそのアルカリ度で,それらの分析値より不溶窒素,カフェイン以外の可溶窒素及び窒素成分間の比率,熱湯可溶分中の可溶窒素成分及びタンニンの比率を算出した。
3. 茶葉化学成分の含量は,年度,品種,産地,茶期を要因として分散分析を行つた結果,各成分の主要因に対するF値の有意性は次の如くであつた。
4. 年度による変異については,可溶窒素,力フェイン,粗繊維・灰分は1950年に最も多く,1951年が最少で,タンニンとアルカリ度はこれと反対の傾向を示した。また全窒素,不溶窒素,残余可溶窒素は1949年が最も少かつた。年度による変異は気象条件が大きな影響をもつものと考えられるが,この試験で得られた気象データ(午前10時の気温及び地温の旬間平均値,降水量と日照時間の旬間合計量)の範囲では,明確な関係は求めることができなかつた。
5. 品種による差は,窒素分についてはやぶきたは不溶窒素多く,べにほまれは可溶窒素が多いが,これは後者がカフェインに富むからである。全窒素に対する比率もこれと同じ傾向である。茶の旨味成分を含む残余可溶窒素の総可溶窒素に対する比率及び熱湯可溶分中の割合は,いずれも緑茶向のやぶきたに多いのは好ましいことであるが,やぶきたの残余可溶窒素はその絶対量及び対可溶分比ともに,春茶より夏茶になると減少が甚だしく,これがやぶきたの夏茶の品質が春茶に比べてかなり見劣りのする事実の説明にもなるであろう。その他やぶきたに多いものに組繊維灰分のアルカリ度があり,べにほまれに多い成分にタンニン,熱湯可溶分があるが,紅茶向品種のべにほまれがタンニンに富み,またその対可溶分比の大きなことももつともなことである。
6. この試験の主目的とした茶葉化学成分の地域差については,土壌条件が最も影響すると考えられる灰分とそのアルカリ度に顕著な有意藍を示したことと,窒素成分がそれら相互の比率とともに何ら有意差を示さなかつたこととが注目される。茶葉の窒素成分は施肥量によつて変るが,この試料については各地と為特別な肥培管理法をとつていないと考えられるから,日本の主要産茶県の南,北限とその中央部から得た茶葉の窒素成分に地域差が認められなかつたことは,茶樹優良品種(特に緑茶向)を広める上に好都合なことと思われる。何となれば,緑茶の品質はその全窒素量と高度の相関を持つことが従来の成績から明らかであるから,産地により茶葉の窒素含有量に差のないことが望ましい。
鹿児島産の茶葉の特長はタンニン,粗繊維が多く,灰分とそのアルカリ度が少く,特に1番茶め灰分の少い傾向があつた。タンニンの熱湯可溶分に対する比率は他の2ヵ所よりも極めて大きく,この比率は春茶では産地差が少いが,夏茶殊に2番茶に産地差が大きくなつて,南方の産地ほどタンニン比率が高いことが認められた。従つて従来の試験成績から,紅茶用原料としてはタンニン含量の多い茶葉が好適なことが知られていることから,タンニンの絶対量と対可溶分比の大きい南方産地が紅茶の生産には有利であると考えられる。
次に埼玉産のものは鹿児島産と全く反対の傾向を示し,タンニン,粗繊維が少く,灰分が他の2ヵ所より最も多く,殊に夏茶の灰分が多い傾向があつた。また埼玉の茶園土壌は燐酸とマンガンが著しく多かつたが,土壌成分と茶葉灰分或はそのアルカリ度との関係は,土壤の鉄と茶葉灰分及び土壌のアルミナと茶葉灰分のアルカリ度の間にそれぞれ+0.903,+0.960の相関々係を得たのみであつた。
静岡産の茶葉の性質はほぼ鹿児島産と埼玉産の中間と認められるが,灰分のアルカリ度が最も大きく,殊に1番茶にこの傾向が著しかつた。
7. 茶葉成分の茶期差については,茶期間の気象条件と茶樹自体の生理状態の差異が影響するものと考えられるが,それは灰分のアルカリ度が特に3番茶に大きな値を示す他,いわゆる春茶と夏茶の間の差が明瞭で,夏茶の中の2,3番茶間には差がなく,2,3番茶の性質はほとんど同じものと考えてよいようである。即ち春茶は窒素成分が多く,タンニン,粗繊維が少いが,夏茶はちようどこれと反対の性質であつて,従来の分析成績とも同じ結果を示した。
8. 分析試料となつた茶芽の生育量は地域差が極めて顕著であつて,芽長,芽重とも埼玉産が最も大きく,静岡産が最小であつた。そして春芽は夏芽よりもよく伸びたが,一般に芽のよく伸びた時の摘芽は重いということができる。

著者関連情報
© 日本茶業技術協会
前の記事 次の記事
feedback
Top