2003 年 74 巻 3 号 p. 363-368
乳牛の妊娠期のセレン摂取量の違いが血中および乳汁中成分に与える影響を調べた.ホルスタイン種未経産牛10頭を用い,平均セレン含量0.02ppmの飼料(チモシー乾草,アルファルファヘイキューブ,脱脂粉乳,コーンスターチ)を基礎飼料とし,5頭には基礎飼料のみを給与し(無添加区),他の5頭には基礎飼料に亜セレン酸ソーダをセレンとして0.3ppm増になるように添加給与した(セレン添加区).両区とも試験飼料に馴致させたのち,人工授精を行い,分娩まで約280日間継続して飼育した.血漿中セレン濃度はセレン添加区が無添加区に比べ有意に高く,無添加区のセレン水準は欠乏域にあった.また初乳および胎盤中セレン濃度はいずれもセレン添加区で有意に高かった.しかし分娩1週間後の乳汁中セレン濃度は両区に差が見られなかった.また血漿中および初乳中IgG濃度は処理間に差はなく,白筋症(臓器や筋肉組織の崩壊)の指標になる血漿中GOT, LDHおよびCPK活性の増加も観察されなかった.さらに,甲状腺ホルモン濃度(サイロキシンおよびトリヨードサイロニン)は処理間で差は見られなかったが,インスリン濃度は無添加区に比べセレン添加区で高い傾向がみられた.ビタミンEが充足している場合,セレン欠乏のみでは白筋症および胎盤停滞は発生しないことが示されたが,0.3ppmの無機セレンの投与により分娩時の血漿中セレン水準は充足域に維持され,その後の繁殖性,抗病性に寄与する可能性が示された.