日本畜産学会報
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野生動物の遺伝子保存技術と発生工学
桑名 貴
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2006 年 77 巻 2 号 p. 189-194

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抄録

人間活動の広がりに加えて,環境汚染や生息域の分断による生息域劣化によって絶滅の危機に瀕している野生生物種は益々増加しており,広義の生息域外保全の一環としてこれらの動物細胞や遺伝資源を保存することが重要になってきた.鳥類の卵は大量の卵黄顆粒を含んでいる巨大細胞であることから受精卵や卵を凍結保存することがきわめて困難で,精子凍結以外の方法は現実的ではなかった.また,鳥類細胞は1996年にわれわれが培養方法を開発するまで長期培養ができなかったために,体細胞の培養と凍結保存も一般的ではなかった.われわれは絶滅危惧鳥類種の体細胞の保存を積極的に行うとともに,鳥類の個体発生初期に出現して将来の精子や卵の祖細胞(幹細胞)である生殖幹細胞(始原生殖細胞 ; PGC)に着目して,これを用いた種の保存,個体増殖の手法を開発している.この技術を応用して繁殖効率の悪い熊本県天然記念物の久連子鶏(くれこどり)の子孫を生殖巣キメラ個体から得ることができた.この研究開発と並行して,PGC凍結保存法やPGC単離精製法も格段に進歩した.既にこの移植技術の応用範囲を広げるための基盤研究も行っており,その成果は絶滅危惧鳥類への応用を含めて,鳥類での凍結保存細胞の利用方法を考える上で重要な基盤技術となると考えている.

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© 2006 公益社団法人 日本畜産学会
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