1977 年 48 巻 8 号 p. 481-488
1961年より1974年の間に,病理学的検索を依頼された牛流産19例中,6例が病理組織学的に真菌性流産と診断され,特にその最後の1例からは真菌の分離•同定が行われた.この例は妊娠8か月令の流産胎児で,皮膚,胃内容および胎膜より共通の真菌が分離された.その菌は形態および生理学的性状が検索され,おもにRAPERおよびFENNELL並びに佐々木水分類法を参考にして,Aspergillus fumigatus FRESENIUSと同定された.胎児胎盤の絨毛は肉眼的に汚い黄白色を呈し,組織学的に絨毛膜の血管壁は線繊維素様に膨化し,絨毛は壊死性で,変性性胎盤炎を示した.絨毛間の細胞崩壊塊中に菌糸が認められた.胎児皮膚に軽度に隆起する灰白色小病巣が散発し,組織学的に表皮の剥離,糜爛および真皮における細胞浸潤が認められ,真皮における細胞集族巣および毛嚢内に菌糸が証明された.胎児肝に小葉中心性不全壊死,また血様体腔液の増量などがその他に見られた変化であった,諸外国において,ウシのA. fumigatesによる流産の報告がなされているが,わが国における報告はこれ迄なされていない.