1980 年 51 巻 5 号 p. 331-335
当研究所で行なってきた軽種馬の親子判定の成績において,1974年と1976年の両年にtransferrin systemにより母子関係が否定されるものが同一交配例にみられた.このような事例が起こる可能性は一般的には考えられないので,1977年と1978年に関係馬の分娩に7回立会し,母子関係を確認し,さらに家系調査を行なった結果次の如き成績が得られた.母子関係が否定となる現象は7例の分娩において3例認められ,これが単なる繁殖上の誤りではなく遺伝的原因によることが明らかとなった.また,この特異な遺伝現象はある一家系にのみ認められ,他の家系には全く認められなかった.このことから何等かの原因によりsilent geneがこの家系に現われ,これが子孫に遺伝したものと思われる.よって,馬のtransferrin systemの遺伝様式は5つの共優性遺伝子と1つのsilent geneの6つの対立遺伝子によって決定されることとなる.なお,関係馬の核型には異常が認められなかった.