抄録
Msp-1 (mouse salivary protein system-1)について遺伝様式を交配実験によって推定し,去勢,テストステロン投与試験および睾丸性女性化症(Tfm)マウスを用いた実験によって性差の発現機構を検討した.交配実験には,雄はS型,雌はF型を示す系統のC3H/Heと雌雄ともF型を示す系統のBALB/cを用いた.その結果,C3H/HeとBALB/cの正逆交配F1の雄はすべてS型を示し,F2の雄のS型とF型の出現率は3:1,戻し交配(BALB/c×F1)の雄のS型とF型の出現率は1:1に分離した.しかしこれらの交配によって得られた雌は,すべてF型を示した.また,C3H/He雄およびF1雄は去勢によってF型に変化し,これらの去勢雄,C3H/He雌,およびFl雄は,テストステロン投与によってS型に変化した.しかしBALB/cの雌雄にはテストステロン投与による変化は認められず,いずれもF型を示した.したがってMsp-1の表現型をC3H/Heのように性差を認める系統をD,BALB/cのように性差を認めない系統をOとすれば,遺伝子型はMsp-1D/Msp-1D, Msp-1O/Msp-1Oとなり,F1の表現型はD,遺伝子型はMsp-1D/Msp-1Oと考えられた,これらの実験からMsp-1は,常染色体性の優性遺伝子Msp-1Dに支配される従性遺伝形質であると推定された.また,Tfmマウスを用いた実験によりMsp-1の性差はテストステロン依存性であり,テストステロンレセプターを介した蛋白同化作用のひとつであると推定された.