抄録
M&A の成功・失敗の基準は、あいまい
になりがちである。そもそも成功が明確に
定義されておらず、ディール(取引)の成
立・売上獲得だけが目的になっていること
も多い。
そのような中でも、買収価格が高すぎる
こと、すなわち「高値掴み」は、M&A 投
資の採算性を大きく悪化させる。つまり、
M&A 成功の条件の一つとして、当事者が
買収価格の妥当性を評価することができ、
買収価格が高すぎるときには、高すぎる、
と判断できる能力を持たなければならな
い。
M&A は、単なる有価証券の売買ではな
く、買収後に価値を実現する事業戦略を必
要とする。本演習では、買収後にどのよう
な事業戦略を実行するかを検討し、その事
業戦略に基づくインカムアプローチのバ
リュエーションを実践する。
具体的には、M&A 案件を題材としたケ
ースに基づき、買収価格に対する感度分
析・モンテカルロシミュレーション・
What-If 分析等のビジネスシミュレーショ
ンを駆使してグループディスカッション
を行う。最終的に、グループごとに買収対
象事業の価値を決定し、M&A 実行可否に
関する意思決定を下す。
グループディスカッションの結果、グル
ープごとに評価額が異なったり、M&A の
実行可否についてもグループごとに結論
が異なることが多いなど、現実のビジネス
環境に近い設定の演習である。なぜ同じ情
報を得ているにもかかわらず評価額や実
行の可否が異なるのか、人によってリスク
の取り方が異なることなどを、演習の最後
に議論する。
M&A に限らず、事業の価値は、今後実
行する事業活動が生み出すものである。従
って、どのような事業活動が可能なのかを
あらかじめ検討すべきである。しかし、事
業環境の認識の差、リスクの取り方の差に
よって、妥当と考えられる事業戦略が異な
ってくるのが現実である。
本演習では、正解の無いケース仕立てに
することによって、自分と他の参加者の考
え方の違いに気づき、組織としてどのよう
に意思決定を下すか疑似体験が可能であ
る。また、複雑になりがちな議論を、短時
間で効率的に進めるた