抄録
【はじめに】一般に歩行の3次元動作解析(以下3D解析)では,平地上で計測した数歩のデータで議論する場合が多いが,統計的解析を行うには十分でない.そこで,我々は多数歩計測が容易なトレッドミルを使用した3D解析法を開発している.この3D解析法では,多数歩計測により身体の連続的な軌跡の表示が可能である.今回,我々は,歩行分析の指標となる足部の軌跡を連続的に計測することで,トレッドミルを使用した3D解析の有用性について検討した.【対象と方法】健常成人3名に対し,1,2,3,4,5,6km/hの6通りの歩行速度でトレッドミル歩行を行い3D解析を行った.3D解析には,トレッドミル歩行解析が可能なキッセイコムテック社製の三次元動作解析システムを使用した.計測時間は20秒間とし,その間の時間因子および側方からの足部軌跡の解析を行った.なお,被験者には各歩行速度ごとに十分な練習を行った後計測を行った.【結果】各被験者のトレッドミル歩行時の計測歩数は,10から20歩行周期と多数歩の計測が可能であった.時間因子では,速度が上昇するにつれて重複歩時間は短縮した.また,重複歩時間の変動係数は,1km/hと2km/hの時に大きな値になった.足部軌跡については,多数歩の足部軌跡を重ね合わせた状態での表示が可能になり,直感的に足部の動きを見ることができた.各速度間で軌跡の形状には大きな差は認められず,速度に関わらず一定の軌跡を描いていることがわかった.また,重ね合わされた足部軌跡のばらつきについては,1km/hと6km/hの時に大きくなった.【考察】トレッドミルを使用した3D解析の利点として,広大なスペースを必要としないで連続歩行による多数歩の計測・解析が可能,同一位置を連続歩行するため歩行時の軌跡などの視覚的情報により左右差や動作のばらつきなどが直感的把握が可能などが考えられる.今回の検討では,足部軌跡を3D解析によって直感的に速度間の軌跡の形状やばらつき度合いを理解することができた.この低速度と高速度での足部軌跡にばらつきが認められた理由としては,歩行の自動化が図れずに一定のリズムで歩行が行えなかったためと考えられる.歩行障害を呈した症例では歩行時の振り出しが一定にならず,ばらつきが認められることが多いため,今回のトレッドミルを使用した3D解析で足部軌跡のばらつきを検討することは,臨床的な歩行分析を行う際の基礎データになりうると考えられ,有用性があると思われた.なお,今回の検討では,生理的分析や筋電図学的な分析を行っていないため今後の課題としたいと考える.