抄録
【はじめに】 Knee Bent Walking,継足歩行など歩容を随意的に統制し練習する方法は,歩行動作を構成する身体運動の一部を修正するために理学療法でよく用いられる手法である.「側対歩(ナンバ歩き)」とは右上下肢,左上下肢を対に繰り出す歩容をいい.武道動作の一様式で体幹回旋を生じないこの側対歩動作を練習する効果が,近年トレーニング専門誌で注目されている.本研究ではこの側対歩動作を「転倒しない歩行・動作」の運動学習に応用する効果を検証するため,健常者の側対歩中の身体重心移動と下肢関節運動を分析したので報告する.【方法】 対象は健常者4名(男性2名,女性2名,平均年齢20.6±1.2才)とした.課題動作に(1)自由歩行5試行,(2)側対歩50試行を行わせた.測定にはVICON370(Oxford Metrics社)とKistler多成分床反力計9286(Kistler社)からなる三次元動作解析システムを用い,被験者の身体標点に配置したマーカ位置と床反力をサンプリング周波数60Hzで測定した.測定データからPlug In Gait Modelを用いて膝関節内外反角度,内外反モーメント,身体重心移動量を算出し,自由歩行,側対歩1-5試行目,側対歩46-50試行目の各課題について検討した.【結果】 結果はすべて平均値で表す.歩行速度は普通歩行1.37±0.08m/sec,側対歩1.32±0.15m/secで差異はなかった.膝関節内外反角度は立脚初期に極大を示し(2.70±0.52°),側対歩(2.61±1.21°)と差異はなかった.膝関節内外反モーメントは立脚初期と後期に外反モーメントピークを持つ2峰波で,自由歩行の第1ピークは0.61±0.14Nmm,立脚中期極小値は0.24±0.10Nmm,第2ピークは0.52±0.09Nmmであった.1-5試行目の側対歩では第1ピーク0.52±0.21Nmm,立脚中期極小値0.35±0.08Nmm,第2ピーク0.45±0.09Nmmであった.46-50試行目の側対歩では第1ピーク0.58±0.12Nmm,立脚中期極小値0.28±0.10Nmm,第2ピーク0.49±0.11Nmmであった.身体合成重心の垂直方向の振幅は,自由歩行で平均26.5±2.81mm,1-5試行目の側対歩では35.16±6.30mmで,46-50試行目の側対歩では45.12±1.95mmであった.左右方向の振幅は自由歩行で32.45±mm,1-5試行目の側対歩で52.66±5.37mm,46-50試行目の側対歩では39.56±2.06mmであった.【考察】少試行数の側対歩では,立脚相膝関節外反モーメントピークが減少し中期の外反モーメントは増加して,石井ら(1998)が示した膝関節症例に近似する傾向にあったが,試行数を重ねると関節モーメント波形は自由歩行の波形に近似した.重心移動量は試行数を増やすと垂直方向の振幅を増加して左右方向の振幅を減少させた. 膝関節内外反モーメント波形と重心移動振幅を変化させた上位体節運動の解析を今後の課題としたい.