抄録
【目的】 水中歩行は浮力による免荷、流体抵抗等を利用した骨関節疾患の運動療法、特に変形性股関節症(以下、OAと略す)等の術後に適用されてきたが、具体的な効果、問題点に関する定量的な力学解析は進んでいない。我々は昨年の本学会において、健常者を対象に下肢関節モーメントの変化を指標として解析し、免荷率58_%_以下での速い歩行においては、免荷による外転モーメントの減少より流体抵抗による伸展モーメントの増大が股関節の関節間力の増大に影響をおよぼすと推察し、股関節術後等における配慮の必要性を提唱した。今回、OA患者を対象として同一条件での実験を行い、運動力学的特徴の検討を行った。【対象】 THA後5_から_72カ月を経過したOA患者11例(女性10、男性1、年齢42_から_60歳)を対象とした。対照群として健常男性9例(年齢21_から_32歳)を対象とした。【方法】 水深1mのプール内に設置した歩行路上を歩調1歩/秒で歩行させた。計測には防水型床反力計(Kistler社:type9253)を使用し、関節の三次元座標は水中、水上に各4台のデジタルビデオカメラを設置、計測し、モーションキャプチャ用ソフト(東総システム:TOMOCO VM)を用いて三次元化、座標を算出した。モデル解析手法により関節角度、下肢関節モーメントを算出した。【結果】立脚初期における股関節伸展モーメントはOA群において陸上では平均23.7Nm、水中では平均17.4Nm、健常者において陸上では平均41.2 Nm、水中では44.7Nmであった。股関節外転モーメントはOA群において陸上では平均29.8Nm、水中では平均22.4Nm、健常者において陸上では平均57.9 Nm、水中では平均42.2Nmであった。【考察】流体抵抗は対象物の速度二乗と運動方向への投影面積に比例し遊脚中期前後に最大となるが、人体の形状が複雑なため流体抵抗の実測は困難である。下肢の形状を直径20cm、長さ100cmの円柱に近似して60deg/secで回転させた場合、発生するモーメントは概算でも100Nm以下であり、膝関節が可動する実際の歩行では更に低値を示す。直接的な流体抵抗の影響が比較的少ないと考えられる、すなわち陸上と同様の解析手法が適用できる立脚期の関節モーメントについて検討したが、健常群における伸展モーメントは遊脚期に対側下肢にかかる流体抵抗を反映して水中歩行時に増大を認めた。一方、患者群においては伸展、外転モーメントとも減少したが、これは対側下肢の振り出しにかかる股関節屈曲、膝伸展速度が健常者より低いためと考えた。歩調を規定したが、OA患者の水中歩行の実際は遊脚期の流体抵抗が減少する様な挙動を示した。以上の結果より臨床においては患者に意識的に速い振り出しをさせなければ股関節にかかる負荷は少なくなる反面、筋力増強としての効果も少なくなると推察した。