抄録
【はじめに】近年アマチュアスポーツが盛んになるにつれて、前十字靭帯(以下ACLと略す)損傷が増加している。先行研究からACL損傷者の長期観察例において変形性膝関節症(以下OAと略す)に移行しやすいことが知られている。ACL損傷者の歩行では、膝関節内に不安定性が生じるために膝くずれの原因となったり、OAを生じさせたりしているものと考えられる。ACL損傷者の歩行は観察上、健常者の歩行とほとんど違いが見られない。しかし、OAに移行する例が少なくないことから細かく歩行解析を行うことでACL損傷者がOAに移行する要因が明らかに出来ると考えられる。【目的】ACL損傷者を対象に歩行解析を行い、代償動作を明確にすることで、OAに移行する要因を明らかにすることを目的とした。【方法】ACL損傷を有し、受傷後一年以上経過した5例を対象とした。使用機器はOxford Metrics社製三次元動作解析システム、Vicon370、キスラー社製床反力計で、測定方法はVicon Clinical Managerの方法に従った。歩行スピードが関節角度や関節モーメントに影響することから、試行は自覚的に"ゆっくり"、"ふつう"、"はやい"と思われる3通りのスピードで各10回ずつ歩行を行い、サンプリング周波数60Hzで計測した。関節モーメントは身長と体重で除して正規化した。立脚前期における股関節、膝関節の関節角度およびモーメントのピーク値を求め、OAに移行する要因について検討した。【結果と考察】膝関節伸展モーメントがマイナス、即ちQuadriceps Avoidance Gait(以下QAGと略す)を呈したものが3例いた。うち2例では膝関節屈曲角度が小さく、そのために床反力ベクトルと膝の関節中心が近づいたことによる影響と考えられた。また、1例では膝関節屈曲角度は健常者と変わらないものの、股関節屈曲角度が5例中最も大きい値を示していた。これは股関節屈曲を強めることによって膝の関節中心を床反力ベクトルに近づけ、膝関節の剪弾力を小さくする、即ち膝関節伸展モーメントを小さくすることで膝崩れを防止していると考えられた。しかし、QAGを呈していても大腿骨と脛骨が実際に前後方向にずれを生じているかは明らかでないため、これが直接OAの要因になるとは言い切れなかった。膝関節内反角度では3例で増大を認め、うち1例は受傷後10年経過した例、2例は半月板損傷を有した例であった。膝関節内反角度の増大は膝関節のO脚変形を生じさせることから、OAに移行しやすい要因であることがわかった。また、ACL損傷者では膝関節内旋に伴って膝くずれが生じやすいとされており、外旋位で立脚しているACL損傷者が多かったが、2例で内旋角度の増大を認めた。この2例は半月板損傷例であり、膝関節内反角度も増大していた。膝関節内反角度が増大すると膝関節内側に荷重が集中し、大腿骨内側顆の形状から膝関節屈曲時に脛骨が相対的に内旋していくため、膝関節内旋角度の増大は内反角度の影響によるものと考えられた。