抄録
【はじめに】肩関節疾患に対する理学療法において、他動的関節運動は良好であるが、自動運動を施行する上でそのポジショニング設定によっては、十分な随意運動を誘発することができないケースが多々ある。そこで、本研究では、肩関節屈曲に伴う肩甲骨周囲筋群の臨床で用いられる多様な肢位における筋活動の相違を明らかにし、その肢位に適した自動運動検討のための資料とすることを目的とした。【対象と方法】対象は、肩関節疾患の既往のない健常成人男性とした。被験者は背臥位・ギャッジアップ45°・背もたれ坐位・端坐位の各4肢位において、肩関節屈曲自動運動を実施した。運動は、メトロノームに合わせ8秒間で最大可動域まで屈曲することとした。運動に伴う筋活動に対し表面筋電図学的分析を施行した。被験筋は、前鋸筋・僧帽筋上行線維・肩甲骨内転筋群の3筋群とした。筋電計と同期させたビデオカメラにて運動を撮影した。分析項目として、肩関節屈曲45°、90°、135°の前後0.1秒間における平均筋電量を計測した。また、肩関節角度計測は角度計およびビデオ記録により実施した。【結果および考察】1.背臥位において全ての筋で各角度での筋放電量は他の肢位に比べ少なかった。前鋸筋に関しては、角度が上がるにつれてその放電量は減少傾向を示したが、肩甲骨内転筋群および僧帽筋上行線維は90°以降再び増加傾向を示した。この現象は、上部体幹の重みによる肩甲骨の固定、および肩屈曲90°以降の相においては上肢の運動により肩甲骨上方回旋が助けられたために前鋸筋の放電量が少なかったと考える。2.45°ギャッジアップ肢位では、前鋸筋は90°以降減少し、僧帽筋上行線維に関しては増加していた。前鋸筋については1と同様の理由であると考え、僧帽筋上行線維は肩甲骨挙上として強く作用していたためと考える。3.筋放電量の差は認めるが、座位においては全ての筋放電量で角度が上がるに従って増加傾向を示した。肩屈曲に伴い、肩甲骨周囲筋が中枢部の固定としてより強く作用することが求められた結果と考える。4.背もたれ座位と端座位の比較の中では、背もたれ座位の方が前鋸筋および僧帽筋上行線維の筋放電量は135°屈曲位において著しく増加していた。端座位に比べ背もたれ座位では、体幹伸展と肩甲骨の動きが妨げられ、より強い筋収縮が必要とされたためと考える。【まとめ】本研究結果より、異なる4つの肢位での肩甲骨周囲筋筋活動の相違は、抗重力肢位および上肢・体幹の固定状況などが影響するものと考察した。今後は肩関節疾患患者の症例分析を加え、より効果的な肩関節屈曲自動運動を引き出していける肢位について検討すべきと考える。