抄録
【目的】日常無意識に上肢を挙上するとき(以下,自由挙上)は,効率のよい挙上と考えられ,肩甲骨面と上腕骨が一致した挙上(以下,肩甲骨面挙上)を行うのではないかと推測した.そこで,健常者に自由挙上をさせ,肩甲骨面(以下,SP)と上腕骨の位置関係を調べた.また過去に肩甲骨面挙上として使用された水平内転角(以下,HA)30°とHA45°での挙上も調べたので報告する.【対象】健常男性右肩13関節で,平均26.1歳であった.【方法】被験者を椅坐位にさせ,骨盤,胸部,頭部をベルトで固定した.被験者にHA30°,HA45°,自由挙上の3通りの挙上をさせた.それぞれ自然下垂位から30°おきに120°まで挙上し、その後最大挙上をさせた.自然下垂位と各挙上時に肩甲骨と上腕骨を以下の様に測定した。 肩甲骨の測定は,肩甲棘三角,肩峰角,下角の3点を指標として,3方向から,上方回旋角,水平面での回旋角,前方への傾斜角を計測し,再現できるようにした.上腕骨では回旋角を測定し,さらに自由挙上ではHAを測定した.それらの平均値をもとに,晒し骨にて各挙上位を再現した.臼蓋中心と肩甲棘内縁,下角の3点を結んだ面をSPとし,上腕骨がSPと一致するかどうかを調べた.【結果】HA30°では挙上30°位でSPと一致した.HA45°では挙上60°位でSPと一致した.自由挙上では挙上90°位,120°位,最大挙上位でSPと一致し,このときHA30°,45°はSPより水平外転位となっていた. HA30°,45°,自由挙上における最大挙上時の上方回旋角は順に38°,41°,50°であり,自由挙上と他の挙上には有意差があった.自由挙上のHAはどの挙上位でも約60°であった.また各挙上の出発位とした自然下垂位では上腕骨が平均16°内旋していた.【考察】挙上90°以降は,HA45°でもSPが上腕骨と一致できなかったこと,さらに自由挙上ではSPがHA約60°を保ち続けたということから,肩甲骨の上方回旋運動には定位置があって,上腕骨の位置変化に対する融通性は少ないのではないかと考えられる.その定位置は肩甲胸郭関節の形態と上方回旋動作筋の力学的バランスによって決定されていると推測される.また,最大挙上での上方回旋角がHA30°,45°ともに自由挙上より少なかったのは,上方回旋の方向と上腕骨の挙上方向が異なっていたためであり,上腕骨の挙上方向がSPから外れれば,上方回旋運動が制限を受けることがわかる. 挙上90°未満では自由挙上はSPと一致しないが,被験者は挙上しやすいと感じている.この理由としては,1)90°以降の肩甲骨面挙上に到達する最短の軌道であるということ,2)出発肢位が上腕骨の内旋位であるために,前方向に挙上すれば上腕骨を回旋しなくても自然と外旋位になり,外旋筋の収縮エネルギーが節約されること,3)挙上に参加する大胸筋,烏口腕筋,三角筋前部線維の収縮効率がよくなること,などが考えられる.