抄録
【はじめに】肩関節外旋筋である棘下筋、小円筋は、Rotator Cuffとして肩甲上腕関節の安定化にも機能している。しかし、これらは系統発生的に分化が異なり、支配神経も異なる。また、構造上、小円筋は筋線維が関節包に結合しているが、棘下筋は結合しておらず、これにより小円筋には肩関節外旋時に関節包の挟み込み防止の作用があると考えられている。このようなことから、2筋間で、異なる作用を示すことは十分に考えられる。もし、これら2筋の働きの違いを明らかにできれば、より個別的な筋の機能向上を目的とした訓練が可能となると考える。以上のことから、次ぎの仮説を立てた。仮説:小円筋に肩関節外旋時における、関節包の挟み込みを防止する作用があるとすれば、棘下筋に比べ筋活動が早く起こるのが合理的である。 本研究は上記の仮説を証明することを目的とした。【対象及び方法】対象は肩関節に既往がなく、日常生活時にも疼痛を認めない健常成人4名の右4肩とした。被験者には本研究の主旨の説明を十分に行い、同意を得た上で測定を行った。測定筋は棘下筋、小円筋の2筋で、これらに対し、ワイヤー電極を刺入して筋電図を記録した。筋電図測定、解析にはPORYGRAPH SYSTEM(日本光電)、BIMUTUSTM(キッセイコムテック)を使用した。測定肢位は筋の走行を考慮し、肩関節下垂位(以下下垂位)、肩関節屈曲90°(以下屈曲位)、肩関節外転90°(以下外転位)の3肢位とし、すべて端座位にて測定した。方法は、ブザー音を合図に可及的速やかに同時に肩関節外旋運動を行わせ、ブザー音から筋活動開始までの時間を測定し、2筋間に差があるかを確認した。各肢位10回の測定を行い、ブザー音からの反応時間の差を記録した。各肢位10回の値を筋間で比較した。【結果】被験者3名では、下垂位、屈曲位での肩外旋運動で、10回すべてにおいて小円筋が速く活動する結果が見られた。しかしながら反応時間の差は下垂位では6.92msec±6.11、屈曲位では16.02msec±7.06と平均値に対してバラツキが大きく統計的な有意さは認められなかった。外転位では10回中7から8回の割合で小円筋が速く活動した。また、被験者1名の反応時間の差は、下垂位で-23.72msec、屈曲位で-3.8msec、外転位で-13.7msecと棘下筋が速く活動する傾向を示した。【考察】小円筋と棘下筋の反応時間には個体内で一定の順序性のあることが示唆され、小円筋が先行する例を多く認めた。しかし反応順序の逆転するケースがあり、また反応時間のバラツキが大きいことから、関節包の挟み込み防止機能だけで両者の働きの違いを説明するのは難しいとの結論に到った。