抄録
【目的】高齢者における脊椎変形は多くみられ,腰痛を訴えることもしばしばである。腰痛には体幹,股関節,膝関節の各々の筋力低下についての報告はあるが,運動連鎖による筋力の関係について検討されたものはほとんどない。そこで今回は脊椎変形の有無による体幹および下肢筋力,そして屈曲,伸展筋力比率の違いがあるか検討した。【方法】対象は医療機関に外来通院している高齢者と,M市に在住する高齢者の計14名(男性8名,女性6名)で,研究の趣旨に同意を得られた者とした。安静立位を側方より写真撮影し,脊椎後彎評価として寺垣ら(2002)の方法を用いて円背指数(H/L×100)を算出した。これら2つをもとに非円背群と円背群の2群に分類した。非円背群(NR群)は男性4名,女性4名(年齢71.8±8.6歳,身長154.3±8.2cm,体重54.4±8.8kg),円背群(R群)は男性4名,女性2名(年齢76.0±4.5歳,身長148.7±9.3cm,体重51.8±5.5kg)であった。腹筋・背筋筋力測定には等尺性体幹筋力測定装置GT-350(OG技研社)を,股・膝関節の測定にはMICROFET II(NIHON MEDIX社)を用いた。測定肢位は体幹屈曲(TF),体幹伸展(TE)および股関節屈曲(HF)は椅子坐位で膝90°屈曲位,股関節伸展(HE)は腹臥位で膝90°屈曲位,膝関節屈曲(KF)・伸展(KE)は椅子坐位で膝90°屈曲位として等尺性筋力を測定した。測定した各部位の筋力及び屈曲,伸展筋力比率(F/E比)を算出し,2群間で対応のないt検定を行った。また3つの筋力比率はSpearman順位相関の検定を行った。危険率5%未満を有意とした。【結果と考察】TF筋力はNR群2.88 Nm/kg,R群2.67 Nm/kg,TEは5.32Nm/kg,4.34 Nm/kg,HFは1.74Nm/kg,1.59 Nm/kg,HEは0.90Nm/kg,0.84 Nm/kg,KFは1.05Nm/kg,0.91 Nm/kg,KEは1.96Nm/kg,1.76 Nm/kgであり,いずれも2群間で有意差は認められなかった。体幹F/E比はNR群0.56,R群0.64,股関節F/E比は2.05,2.02,膝関節F/E比は0.53,0.52であり2群間での有意差は認められなかった。筋力比率の相関はNR群では体幹F/E比と膝関節F/E比において負の相関が認められた(r=0.73,p<0.05)がR群では認められなかった。このことからNR群で起こっていると思われる運動連鎖は,脊椎変形により連鎖が起きない状態になっていることが考えられる。