抄録
【はじめに】腰痛症に対する保存療法の一つとして軟性コルセットがあり、臨床において広く用いられている。この作用機序は腹腔内圧上昇による腰椎の負担軽減、および腰部周囲筋の支持性向上といわれている。しかし、その効果については様々な報告がなされているが、確定には至っていない。また、腰痛患者が実際にコルセットを装着しているのは歩行等の動作時が多いが、その際の腰部周囲筋に対するコルセットの影響については報告が少ない。そこで、今回軟性コルセットの装着の有無が歩行時の腰部周囲筋の筋活動に及ぼす影響について筋電図学的に検討したので報告する。【対象と方法】対象は健常女性6名で、年齢は25±2歳であった。測定筋は内腹斜筋(単独)、脊柱起立筋(第3腰椎レベル)、大殿筋の3筋で、全て右側の筋腹上に表面電極を貼り導出した。右足底の踵と拇趾球にフットスイッチを貼りつけ、歩行周期の基準を右下肢とした。測定と解析にはNORAXSON社製筋電計MyoSystemを用いた。運動は軟性コルセット(日本シグマックス社製マックスベルト)非装着時と装着時の2条件下で、時速2.0kmのトレッドミル歩行を3分間行なわせた。測定時間は2条件ともに歩行開始2分30秒から2分40秒の10秒間とした。非装着時の測定時間内での歩行周期にける各筋の平均振幅値を100%とし、2条件下での立脚期、遊脚期それぞれにおけるの各筋の平均振幅値をパーセンテージで示した。各筋の立脚期、遊脚期それぞれの平均振幅値を非装着時と装着時で比較し、統計処理にはWilcoxonの符号付順位検定を用い、5%未満を有意水準とした。【結果】内腹斜筋の遊脚期における平均振幅がコルセット非装着時では95.3±21.9%、装着時は116.7±21.0%と装着時の方が増加していた(p<0.05)。その他、内腹斜筋立脚期、脊柱起立筋立脚・遊脚期、大殿筋立脚期において装着時の方が増加する傾向にあった。【考察】本研究では装具装着により遊脚期における同側の内腹斜筋の活動が増加するという結果が得られた。歩行中の骨盤の回旋・傾斜は効率の良い歩行を生み出す要因の一つとされている。装具装着では従来行なわれる骨盤の回旋・傾斜が制限され、固定された中で体幹の回旋を行なおうとしたため内腹斜筋の等尺性収縮が起こり、筋活動が増加したと考えられる。また、内腹斜筋立脚期、脊柱起立筋、大殿筋立脚期においても装具装着により筋活動が増加する傾向にあった。これらのことからコルセットの装着により脊柱・骨盤の運動が制限された歩行ではバランスをとるために腰部周囲筋の筋収縮が強制されるのではないかと考えられる。しかし、今回の研究では脊柱起立筋や大殿筋の変化を明らかにするには至らず、他の歩行速度における筋活動の変化とあわせ今後の課題としたい。