抄録
【はじめに】運動療法および物理療法により、変形性膝関節症(以下膝OA)の疼痛および能力低下を軽減させることが諸家により報告されている。一般に温熱療法後の膝関節可動域(以下ROM)運動やSLRを用いた大腿四頭筋等尺性運動(以下SLR)やエルゴメーター等の運動療法が推奨されている。そこで今回我々は、膝OA患者に対して通常の運動療法にモビライゼーションやストレッチング等の徒手療法をさらに加えることが、従来の方法より効率的であるか否かを検討した。【対象と方法】膝OA患者(24人、女性22名、男性2名)を無作為に運動療法群(54歳から81歳、平均70.5歳)と徒手療法併用群(66歳から81歳、平均73.7歳)に分類した。運動療法群は温熱療法後、下肢筋力運動として反対側の膝関節を軽度屈曲した状態でSLR20回を1から3セットとエルゴメーター10から15分を行った。またROM運動として大腿四頭筋、ハムストリングス、下腿三頭筋の自動運動も指導した。一方、徒手療法併用群は運動療法群のプログラムに理学療法士による膝関節と仙腸関節、股関節、足関節などの隣接関節のモビライゼーションや膝周囲筋のストレッチング等を併用した。治療は両群とも2ヶ月、2回/週の割合で通院で実施され、その他は指導した運動を自宅で行った。臨床評価には日本整形外科学会膝疾患評価点(JOAスコア)、 西オンタリオ・マクマスター変形性関節症指数(WOMACスコア)、6分間の歩行距離、膝ROM、膝関節の伸筋、屈筋の筋力測定等で行い、治療前と治療開始から2ヵ月後で評価し比較・検討した。筋力はバイオデックスシステム3にて求心性収縮角速度60度/秒の等速性最大トルクや膝屈曲60度での等尺性最大トルクを測定し、体重で除した値を筋力とした。【結果】運動療法群、徒手療法併用群ともに治療前と比べると、JOAスコア、WOMACスコア、6分歩行、等速性膝伸展筋力、膝ROM等において有意な改善を示した。両群ともWOMACスコアの内訳では、疼痛と身体機能において治療前と比べ有意に改善されていた。改善度で比較すると徒手療法併用群のWOMACスコア、等速性膝伸展筋力そして膝ROMが運動療法群に比べ有意に改善していた。【考察】大腿四頭筋訓練が膝OAの保存的治療に関して有効であるといわれる根拠はいまだ十分立証されていない。短期間で筋力が増加したと考えるよりは、むしろ滑膜・関節軟骨・関節包・軟骨下骨などが複雑に関係した除痛を支持する報告が多い。徒手療法併用群は、さらに関節モビライゼーションやストレッチング等を加えることにより膝関節の疼痛が軽減し、臨床症状が改善されたものと思われる。本研究により膝OAに対して、従来の運動療法に関節モビライゼーションやストレッチングなどの徒手療法を加えることは有効であることが示唆された。