抄録
【はじめに】高齢者は壮年者に比べ活動性が低く、且つ日常生活を送る上で肩関節を動かす範囲が比較的狭い。そのため肩腱板断裂を起こした場合に保存的療法にて対処することが多く、肩関節の手術適応はかなり限定される。今回職場復帰への意欲が高かった症例に対して手術を施行し、その術後療法を経験したのでここに報告する。【症例紹介】80歳男性。右腱板横断裂。職業は清掃業務<現病歴>平成14年7月、自転車から転倒し右肩を強打する。主訴は肩を動かした時の疼痛。X線所見にて右肩峰骨頭間距離5mm。【術前及び術後経過】術前評価において右肩挙上・結帯動作時に三角筋中部線維に痛みあり(VAS:10/10)。ROMでは右肩挙上70°、水平内転50°、結髪・結帯動作不可。MMTでは右肩挙上及び内外旋が2レベル。同月29日、右肩関節形成術(Mc Laughlin法)を施行する。術直後よりベッド上にて牽引を実施。術後1週目からZero positionにてギプス固定。理学療法は術後4日目より開始し、3週間後にギプス除去。その後、約10日かけて徐々に肩下垂位獲得練習を実施。その際、ROM exと筋力増強exは痛みや疲労を起こさないよう特に注意し、その日の本人の状態に応じ運動量を日々調整しながら少量頻回で行った。その結果、術後5週目でのROMは肩挙上140°、内転-20°、2nd内旋35°、術後8週目では右肩挙上160°、2nd内旋50°、水平内転115°、結帯動作可能。筋力は右肩挙上・外旋4、内旋4-レベルまで改善した。痛みは術前に比べ著明に軽減し(VAS:3/10)、日常生活動作に支障を来たすことが少なくなった。術後9週で自宅退院し、現在は元の職場に復帰している。【考察】一般的に高齢者は自らの仕事や身内の介護、スポーツ活動等で上肢を使わざるを得ない場合を除いて肩関節に負担のかかることは比較的少ないと思われる。その為、壮年者と比べ手術の適応が限定されると推察できるが、本症例においては職場復帰への意欲が非常に高く、その為手術に至ったものと言える。逆に、本人が単に日常生活レベルでの改善を目標としていたならば今回のような手術を行わなかったかもしれない。日本人の平均寿命が伸びる中、高齢者が仕事や配偶者の介護等において壮年層と同様に身体を使う機会が多くなってきていることも予想される。それ故、高齢者の腱板断裂に対する手術も今後増えていくのではないかと推察される。しかし、高齢者の腱板断裂の形状は広範囲・大断裂で筋自体の退行変性が進んでいることも多く、関節可動域・筋力獲得の運動方法に関しては壮年層に行う理学療法に比べ、よりきめ細やかな配慮が必要と考えられる。【まとめ】高齢者の手術においても本症例のように可動域が増大し、疼痛が顕著に軽減することが示唆された。高齢者では活動性が低いという理由から保存療法に限定するのではなく、症例の要望やニードを十分に把握した上で手術を検討していくことも必要と考える。