抄録
【はじめに】腱板断裂は、肩関節の痛みと機能不全をもたらす疾患であり、その臨床症状は腱板断裂の程度、経過期間、年齢、社会的活動性など多様な訴えから成り、意見の一致が得られていない。そこで本研究では観血的に腱板断裂修復術を受けた症例に焦点を置き、術後発生し得るだろう様々な臨床症状に影響する因子をより明確に把握し、術後の生活指導の目安にするため、アンケートと機能評価の二つの側面から、肩運動機能(疼痛、活動レベル、患者の主観的満足度、関節可動域、筋力など)を追跡調査し検討したので報告する。【方法】対象は、肩腱板断裂の観血的再建術後、日常生活や労働に復帰していると思われる術後半年から十年ほど経過した124名(男性88名,女性36名;平均年齢61.9±8.6歳)であった。対象者は完全腱板断裂と診断され、McLaughlin法に準じた修復術を受けた者とした。アンケート調査は、妥当性・信頼性の性質がすでに検証済みの質問票を流用し、手術からの期間、活動レベル、痛みの状態、日常生活や家事動作、仕事・作業の形態、関節の可動性、満足度などを多肢選択法で行い、痛みや機能レベルの変数測定にビジュアルアナログスケールも使用した。また、満足度の項目で不満足・疑わしいと答え、直接評価が可能だった15名に対し、ハンドヘルドダイナモメーター(J tech Medical社製Power Track II)を使い肩関節周囲筋筋力の評価を行った。統計処理にはSPSS-Windows版Ver10.0Jを使用し、χ2検定とt検定で解析し、有意水準を5%とした。【結果】満足群は67人(54.1%)、不満足群は22人(17.7%)であり、普通群を含めると術後成績良好群は102人(82.3%)であった。性別・年齢はあまり影響せず、受傷からの期間・疼痛・活動レベルが関与し、特に主観的満足度が強く影響していた。満足群は現職復帰がもっとも多い一方、不満足群の男性は何も出来ない状態、女性では家事労働者が主となっていた。痛みに関して女性に家事・着替え時の痛みが残存している症例が多かった。また、腱板を含めた患側の筋力低下(特に屈筋・外転筋・外旋筋)と、軽度の関節可動域制限の残存が明らかになった。【考察】術後の安静期間中に健常上肢による動作の習慣化と、痛みや再断裂への不安感が、消極的な患肢の使用・機能回復の遅延につながることが考えられる。腱板断裂修復術後患者のQOL向上には、反対の脇を洗う・頭上の棚の物に手を伸ばすなどの頻繁に使用する日常生活動作、患者の主観的満足度、経時的関節可動域・肩周囲筋力の評価を、対象患者の性差、生活・作業環境を含めてフォローアップしていく必要性があり、特に女性は三角筋や残存する腱板など影響のない構造の働きがもともと弱いことに加え、筋損傷からの回復力が低い傾向が見られた。