主催: 社団法人日本理学療法士協会
[目的] 骨粗鬆症を基礎疾患として、転倒、転落により骨折を来たし、特に大腿骨頚部骨折の場合には寝たきりによる廃用症候群等の原因となることが少なくない。当院の健康管理センターに開設した「転倒予防教室」(以下、教室)では、一般検診にて骨量評価を行い、参加者への運動・生活指導の基礎資料の一部に使用している。今回は骨量評価をもとに身体機能、特に転倒回避能力との関連性について検討をしたので報告する。[対象] 教室参加者375名のうち、何らかの理由で修了できなかった者と体重や年齢と骨密度との関係から80歳以下で体格指数BMI25.0以下、また参加者の殆どが女性であることから男性を除いた190名を対象とした。その内訳は、平均年齢は69.3±5.1歳、身長151.6±11.3 cm、体重49.7±6.0kg、BMI21.3±2.2である。[方法] 大腿骨頚部骨密度(Hologic社製QDR2000)によりYAM比にて骨粗鬆症(以下、A群)51名、骨量減少(以下、B群)73名、正常(以下、C群)66名の3群に分けた。転倒回避能力には、健脚度(10m全力歩行、最大1歩幅、40cm踏台昇降の可否)とバランス能力としての開眼単脚直立時間等を採用し、運動・生活指導介入前の教室初回時と教室修了時の介入後での転倒回避能力と骨密度との関連性を検討した。また、転倒を生活習慣病と捉え、脂質代謝の指標(動脈硬化指数、総コレステロール、HDLコレステロール、中性脂肪等)についても検討を加えた。統計処理はKruskal-Wallis検定、Mann-Whitney検定、χ二乗検定を用い、有意水準5%以下を有意とした。[結果]介入前後で転倒回避能力と身体機能ではA群にて他群と比較し、身体機能の低下を認めたが、統計学的有意差は認められなかった。しかし、介入後ではB群とA群の最大1歩幅/下肢長(左)と、開眼単脚直立時間(両側)でのC群とB群、AとB群において統計学的有意差を認めた(P<0.05)。また、骨密度と動脈硬化指数等との関連性は認められなかった。[考察]Cummingsらは転倒予防には骨量増加が必要であると述べているが、教室では、Whippleらが提唱するバランスチャレンジをもとに生活指導を行い、転倒の主要因をバランス能力の低下と位置づけ、リズム運動などの運動指導を実践している。しかし、B群やA群でバランス能力の低下が認められたことや転倒群ではバランス能力に著しい低下がある(第37回本学会)ことから個人に合った転倒予防プログラムの必要性が急務であることが推察された。 [結語]大腿骨頚部の骨密度により骨量低下のある者と転倒回避能力、とくに開眼単脚直立時間のようなバランス能力との間に関連が認められたことは、それらを考慮したより個別的で工夫された安全で有効な運動・生活指導の立案・実践が重要であることが考えられた。