抄録
【はじめに】これまで高齢者の転倒予測に関する研究では,最大歩行速度や筋力など,加齢に伴う量的な変化が注目されてきた.しかし近年,量的な加齢変化というよりはむしろ,歩幅のばらつき(Maki BE, 1997)、1歩行周期時間のばらつき(Hausdroff JM, 2001)といった質的な加齢変化が転倒に関連すると報告されている。しかし、この質的な変化が可逆的であるのかどうかの検討はなされていない.そこで我々は,地域在住高齢者を対象に歩行のリズム調節をトレーニングする機器 (以下、両側分離型トレッドミル,PW-21:日立製作所)を用い、1ヶ月間トレーニングを行い,1歩行周期時間のばらつきの変化を検討した。【対象】地域在住健常高齢者24名を無作為に介入群(69.4±6.2歳)とコントロール群(67.1±2.6歳)に分けた。【介入内容】両側分離型トレッドミルは片側のベルトを急激に減速させることで歩行中にリズムをみだすことが可能な装置である。全ての対象者は週2回・1ヶ月間(計8回)15分間歩行した。介入群にのみ歩行中に時間及び左右各々ランダムに転倒刺激を加えた。転倒刺激は最初の2週間は初期速度の20%減速、3週目は40%、4週目は60%と強度を増加させた。【測定方法】1ヶ月間の介入の前後で1歩行周期時間を測定した。1軸加速度計を対象者の左踵部に装着し、1周40mの円を快適速度で20分間連続歩行させた。その間の加速度データはテレメーターシステムを介しデータレコーダーに記録し、その後1歩行周期ごとに抽出し、20分間歩行時の1歩行周期時間のCV値(標準偏差/平均値×100)を求めた。測定は両側分離型トレッドミルを用いた転倒予防トレーニングの前後で行った。統計解析はMann-WhitneyのU検定を行った。有意水準は5%に設定した。【結果】トレーニング前のCV値の平均は介入群で3.3±0.03%、コントロール群で1.7±0.02%であった。トレーニング後にはそれぞれ2.0±0.02%、2.5±0.02%に変化したが有意差は認められなかった(n.s.)。 転倒歴のある者のCV値の平均は4.1±1.2%と報告されており(Hausdroff JM.1997)、このことからトレーニング前にCV値が2.9%以上である対象者は1歩行周期時間のばらつきが大きいと考えられる。そこでトレーニング前に介入群中のCV値が2.9%以上の対象者6人に関して解析すると、Wilcoxon符号付き順位検定において有意な減少を示した(P<.05)。【考察】本研究では,地域在住高齢者を対象に無作為化比較対象試験により、リズム調節を促すトレーニングが1歩行周期時間のばらつきを少なくするかどうか検討した。その結果、介入群中のリズム調節に異常のあるものでは、トレーニング後にCV値が有意に低下した。このことは、リズム調節を促すトレーニングは,歩行の質的加齢変化に対して可逆的な効果をもたらすといえ、地域在住高齢者の転倒を予防する可能性を示唆すると考える。